「奇跡みたいな瞬間が切り取られている…!」青い春 ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
奇跡みたいな瞬間が切り取られている…!
危うさと残酷さと痛々しさと、圧倒的な美しさ。
若さとはなぜこんなに美しいんだろう。
そしてそんな奇跡みたいな美しさが凝縮された作品だった。
まず九條を演じた松田龍平のすさまじい美しさ…。
言い表したくても言語化できない…。
当時の松田龍平の美しさを余すことなく切り取ったというだけでもこの作品はある意味伝説である。
松田龍平だけじゃなく若い新井浩史も高岡蒼甫も瑛太も忍成修吾もみんな美しい。若さってそれだけで一種の芸術だ。
あと高校生という、大人に羽化する前の儚く危うい年代の美しさ。開花寸前のつぼみの花のような美しさ。「自分はこれから何になるんだろう」と模索する人間の美しさ。止められない時間の儚さ、命の儚さ。儚いゆえの美しさ。
あと九條と青木の関係の切なさと美しさ。
青木は九條と後半に向けて対立してだんだん孤独を深めていくけど、青木はずっと九條に対等な相手と認められたかったのだと思った。九條は九條で、かつて自分をドッジボールに誘ってくれた頃の青木を求めていたのかもしれない。自分を番長として立てる存在じゃなかった頃の昔の青木を。
そう思うとラストのあの結末むちゃくちゃ切なすぎる…。劇中、だんだん独りで真っ黒に染まっていく青木が苦しすぎた。一晩中青木は屋上から下を見下ろして何を思っていたんだろう。13を数えて落ちていった時何を思っていたんだろうか。
2人の関係は原作が同じ松本大洋さんの作品「ピン★ポン」のペコとスマイルに通じるものがあるなと思った。(この関係も最高)
あと不謹慎だけどあのシガレットキスはすごくグッときた…。
九條と青木に限らず、変わっていかずにはいられない彼らの関係が切なかった。集合写真を撮っていた頃のままではいられなかった彼ら。大田は悪い先輩とつるみ出して幸男と一緒にギターを弾くこともなくなり、幸男は自分の将来に追い詰められて大田を刺して逮捕され、木村は野球に見切りをつけて学校から去っていった。
どんどん変わっていく彼らがどうしようもなく切ない。
九條にとっての楽園は楽園のままではいられなかった。
あと素晴らしかったのが上田ケンジさんの劇伴とミッシェルガンエレファントの楽曲…。
冒頭の「赤毛のケリー」に鳥肌が立ち、終盤の「ドロップ」が流れて九條が走り出した時は心が震えて涙が出た。「ドロップ」という楽曲はこの映画そのものだと思えるくらい合っているしエンドロール観ながらひたすら涙出た…。
耐性のない人間にはエグい暴力シーンが結構辛いんだけど、音楽と登場人物、映像すべてが美しくすべてが奇跡のバランスでできた作品だった…。