人生は、時々晴れ : 映画評論・批評
2003年6月3日更新
2003年6月21日よりシャンテシネほかにてロードショー
“帰る”は“出発する”と同程度に勇気ある行為なのだ
こんな容貌や体型の人たちって映画であまり見る機会がないよなあ……と思える人たちばかりが登場する。もちろん美男美女の有名スターの引き立て役として等々の設定ならありなんだけど、この映画にスターらしき存在は皆無であると断言できる。ただ、こういう人たちが実在するには違いないわけで、僕たちが映画で見る世界は、かなり現実世界と異なるルールで成立しているんだ、と改めて気づかされる。
同じ集合住宅で暮らす3つの家族を中心に物語は展開。「秘密と嘘」は中産階級の物語だったが、本作はより貧乏な労働者階級に焦点を絞り、人種問題を絡めるなどの小細工もない。そんなわけで、「秘密と嘘」にあまりノレなかった僕としては、むしろこっちの方がマイク・リーらしい傑作だぞと主張したい。
それにしても家族は厄介だ。もうあんなの親でも夫でも子でもない……と愛想をつかしても帰る家は一つしかなかったりする。で、人間にとって“帰る”は、“出発する”や“逃げる”と少なくとも同程度に勇気ある行為なのだと、どこかへ消えちゃいそうだった主人公のタクシー運転手が家族の許に戻る光景を眺めながら思った。家族というクサレ縁を断絶するのも勇気なら、それを継続したり再生させるのだって大いなる勇気なのだ。
(北小路隆志)