メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬 : 映画評論・批評
2006年3月14日更新
2006年3月11日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
クールにボケたおした笑いと共に綴る男泣き映画
劇場用映画初監督にして、この意欲作。トミー・リー、なかなかやってくれるじゃないの。メキシコとUSA、国境を接しながらも永遠のディスコミュニケーションを抱える荒涼たる土地。だがそこに辿りつき、根づいた者たちには、互いの文化への尊厳と深い親愛の情が生まれるだろう。寄る辺なきアウトサイダーたちにいずれ普遍的に訪れる運命の哀切を、正しくサム・ペキンパー的な語法で描いた男泣き映画なのだ、これは。“死体”を介在させた国境越えの現代西部劇とは、まるで「ガルシアの首」のバリエーションでもある。
「21グラム」などイニャリトゥ映画常連ギジェルモ・アリアガの脚本だけあり、4パートで構成された全体のうち、最初の2パートは彼らしい時系列の撹乱も面白い。しかし話法としての過激さは今回控えめで、その後はテキサス・カウボーイ(トミー)と、彼の親友である密入国メキシコ人メルキアデスの腐爛死体(!)、そして彼を誤射してしまった国境警備員(バリー・ペッパー)。そのきっかけというのが何ともはや……というメキシコふるさと3人旅を、クールにボケたおした笑いとともに綴っていくのだ。笑いの質は、たとえばデビッド・リンチ的なものを想起したとして間違いじゃないはず。メキシコ製の古いSF映画がTVで放映されるなか、ホンキートンク・ピアノのショパンがエンドレスで流れる露店酒場シーンなんてかなりのトリップ感あり。「フランケンシュタイン」(31)の登場人物を彷彿とさせる盲目の老人役は、なんとザ・バンドのレボン・ヘルム! おそろしくいい味出してます。
(ミルクマン斉藤)