「夫婦の寝室」こわれゆく女 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
夫婦の寝室
精神病で入院する妻ばかりでなく、夫もかなり壊れている。
この夫婦のコミュニケーションの難しさは、子供たちを含めた第三者がそこへ入り込む時に顕著となる。
かかりつけの医師を自宅に呼ぶことで、ジーナ・ローランズが次第におかしくなっていくところなど、早く夫婦だけにしてやりたい気持ちで、こちらの心がヒリヒリしてくる。この夜は、ラストのシーンを除けば、この二人が水入らずになれた、ほとんど唯一の瞬間だったはずだ。
二人にとっては、これほどまでに二人きりの時間を持つことが難しい。この状況を映画の中で、物理的に規定しているのが、この家の夫婦の「寝室」である。
まず、夫婦の専用の寝室が存在しない。
彼らは食堂兼用の部屋を、来客用のテーブルを片付けて、折り畳まれたベッドを展開することによって二人の寝室とする。
家族だけの食事スペースはすぐ隣にあるのだか、来客があれば少々開閉にコツが必要な扉をスライドさせて広い空間を作り出すことができる。
皮肉にも、その寝室兼客間から家族用ダイニングに入ると見えるのが、「private 」と印された扉である。この奥に台所があり、この家の主婦の固有空間がキッチンであることが示されている。
この扉の印は非常に重要なアイコンとして機能する。
行きずりの男を家に連れ込むも、その男が翌朝見ることになるのもこの扉のサインになる。
最もプライバシーに関わるはずのベッドインが、プライベート空間の外で行われていた。この事実だけでも、彼女の言動以前に奇妙な気分になってしまう。
夫婦の寝室と、彼らの性的関係の不可能性について言及した作品として、我々は森田芳光「家族ゲーム」を知っている。
この二作品ともに家の間取りに強く興味が湧く。もう一度観なおして、二つの家の図を書いてみるのも面白そうだ。