16ブロック : 映画評論・批評
2006年10月3日更新
2006年10月14日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー
予測不能の逃走劇と予想外の人間ドラマで目が離せない
導入部から、目付きも変え、くたびれたアルコール依存症の中年刑事ジャックを見事に体現したブルース・ウィリスに驚かされる。なぜ彼は働く意欲を失ったのか? そんな疑問を抱かせつつ、予測不能の逃走劇と予想外の人間ドラマがほぼリアルタイムで進み、一瞬たりとも目が離せない。
ニューヨークの警官全員を敵に回すことを覚悟して、ジャックは刑事の不法行為を目撃した証人エディを裁判所まで送り届けようとする。だが、正義感による行為ではないことを匂わせつつ、危機が連続する中、刑事フランク(デビッド・モースがいい味)とのやりとりを通して秘められた過去と心情が明かされていく。しかも、再起を願うアフリカ系の不良青年エディとの触れ合いが「人は変われるのか?」という主題と絡み、心地よい余韻に包まれる。
この根は優しいエディを、ラッパーのモス・デフが好演。終始しゃべりまくっているが、表情などから緊張のあまり饒舌になっていることがわかり、独特の緊迫感を醸し出している。彼がジャックに問う、人柄がわかる謎かけが隠し味になっているのも洒落ている。アクションはニューヨークの雑踏を活かしたチェイスにはじまり、バスを乗っ取っての息詰まる駆け引き、激しい銃撃の中での脱出など、じつに多彩。不摂生で体のキレを失ったジャックが、咄嗟の判断と捨て身の戦法で危機を乗り越えてゆき、手に汗握る。少々強引な部分もあるが、新しさにあふれた秀作だ。
(山口直樹)