劇場公開日 2003年9月6日

「時代に合わせて時代劇も革新されなければならないのです」座頭市 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0時代に合わせて時代劇も革新されなければならないのです

2020年6月16日
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鑑賞方法:DVD/BD

2002年9月公開のたそがれ清兵衛に対抗心を持って撮られた作品では無かったでしょうか?
本作は2003年9月公開丁度1年後に公開されました

色々な経緯があって、座頭市のオファーを受けたときどのような映画にするのかを当然北野武監督も考えたでしょう

北野武監督が撮る時代劇映画とは何か?
自分が時代劇を撮る意味とは何か?
21世紀に於ける時代劇映画とは何か?
これらについて考え抜いた答えが本作だったのだと思います

本作の1年前に公開されたたそがれ清兵衛で、山田洋次監督はどう取り組んだか?
自分の撮りたいテーマに相応しい題材を選び、徹底的な時代考証をして、伝統的な時代劇のフォーマットの枠の中で表現する事を目指して大成功を収めました

北野武監督はどうだったか?
学術映画じゃないんだから、時代劇らしければそれでよい、結局のところ娯楽映画なんだという割り切りです
では、座頭市という完成されている物語の枠の中で何を撮るのか?
21世紀に於ける時代劇フォーマットの提示
それが自分の仕事だと、北野監督は考えたのだと思います
本作がその答えなのです

本作を観て、まず目を引くのはこのようなことです

座頭市が金髪であること
音楽が現代的であること
畑の鍬、大工作業、祭りの踊りのリズム
主人公はもちろん身体障害者であり、主要な登場人物に女装の男性を配していること
強烈な刺激のあるグロい殺傷シーンを徹底してちりばめていること
時に石灯籠を切断するなど漫画的な誇張をいれていること

お話は基本、勝新太郎のオリジナルの第一作、座頭市物語に準拠しています
対立関係のヤクザ、博打、浪人はほぼオリジナルからの由来です
しかしストーリーに意味は余りありません
過去の時代劇の名作のシーンのオマージュだらけです
つまり、よくあるパターンのパッチワークに過ぎないのです

というか徹底してそう志向しています

監督がやりたいことは、あくまで21世紀における時代劇の表現方法の方なのです

時代劇は伝統芸術の世界で美術館に飾っておくものでしょうか?
違うはずです
時代に合わせて、その時代の大衆の感覚に合わせて進化するべきものです
でなければ娯楽作品足り得ないのは自明のことです

眠狂四郎は茶髪だったはずです
確か異人との間に生まれたとの設定でした

黒澤監督の用心棒では犬が手首をくわえて走ってきたり、斬り合いでは派手に血飛沫が飛んでいました

音楽やダンスだって、そもそも1939年のマキノ正博が撮った日本映画オールタイムベストに必ずリストアップされる鴛鴦歌合戦が、時代劇にして和製ミュージカルでした

昔から映画はそのように時代に合わせて進化して来たのです
批判されるいわれは全くないのです
時代に合わせて時代劇も革新されなければならないのです

北野武監督はその自分に与えられた使命を理解して、この大仕事を果たして見せたのです

結果はどうか?
日本だけでなく、世界中の大衆の支持を得て本作はヒットをしました

監督の回答は正しかったのです!

時代に合わせて進化させていますが、過去の時代劇の名作へのリスペクトが無いわけでは決してありません
むしろ半端ないリスペクトがビシビシ伝わって来ます

伝説のカメラマン宮川一夫のような彩度を落とした銀残しの味わいがある本編の映像
回想シーンになるとさらに彩度が落ちて幕末の写真に淡く彩色したかのような映像になります

キタノオフィスのKのロゴの青色の彩度が落としてあり、その時点からそれをやると宣言しています

ところが、日射しのある中の重量感のある豪雨の中での斬り合いでは明るくコントラストを高く取っています

なぜならば、このシーンは黒澤監督の七人の侍での黒い雨の中の戦いに対して、白い雨の戦いで偉大な先輩に挑んで見せているシーンだからです
監督が絶対にやらないといけなかった宿題のシーンだからです

その他にも多くのシーンで、構図など数多くの時代劇の名作をオマージュしているように思います

21世紀の時代劇を目指してはいますが、これほど過去の時代劇の遺産をリスペクトしている作品はそう無いと思います

「目が見えない方が人の心が分かるんだよ」
「いくら目ん玉ひん剥いても見えねぇもんは見えねぇんだけどなぁ。」

この二つの台詞はワンセットになっています
映画評論家や、時代劇の伝統がどうだとガタガタ騒ぐうるさ方の面々への監督からのメッセージです

時代劇映画の新参者が作り、時代劇をさして観てもいない映画にそう詳しくもない大衆の方が、時代が求める時代劇とは何かが分かっている

いくら重箱の隅をつついて、ここがおかしいとかやってってみたところで、俺の創ろうとした時代劇の本質とは何か?お前達には何にも見えてないだろ

それが本作の監督からの結論であったのです
皮肉ともいえますが

あき240