バニラ・スカイ : インタビュー
キャメロン・クロウ監督インタビュー
今までやったどの映画よりも、タフな挑戦だった
編集部
キャメロン・クロウの持ち味は、身近なテーマ性、ウィットに富んだ会話、そしてポップな選曲だ。これまで、じっくり時間をかけてオリジナル作品に取り組んできた彼が、サスペンス色の強いアレハンドロ・アメナバール監督作「オープン・ユア・アイズ」のリメイクに挑んだ。この企画は、「オープン~」に惚れ込んだトム・クルーズが自らハリウッドでの映画化権を獲得し、「ザ・エージェント」(96)でコンビを組んだクロウを監督に指名したため実現にいたったわけだが、クロウ監督作のファンとしては、“サスペンス”“リメイク”といった要素にどうしても違和感を感じてしまう。クロウ自身も、最初に監督を依頼された時、戸惑いはなかったのだろうか?
「実際、とてもタフな挑戦だったよ。今までやったどの映画よりも。『オープン~』は素晴らしい作品だ。僕はそこに、ポップカルチャーやカジュアル・セックスといった要素を加えて、自分のもとへと引き寄せていったんだ」
そしてクロウは、「オープン~」に敬意を払いながら、自分らしいテイストを盛り込んで「バニラ・スカイ」を完成させた。
「今回はとても早いペースで仕事をしたんだが、いつもみたいに考え過ぎることがなくて良かったよ。それがとても楽しくてね。僕はすごくポジティブな人間だから。アメナバールは『ラストが白くフェードアウトするのが気に入った』と言ってくれた。『オープン~』のラストは黒くフェードアウトする。それがこの2つの映画の象徴的な違いだと思うよ」
半自叙伝的なストーリーの前作「あの頃ペニー・レインと」を観ても分かる通り、クロウはもともと音楽ジャーナリスト。映画で使用する音楽への思い入れはとても深い。これまでの作品はアメリカン・テイストの選曲が多かったのだが、本作ではレディオヘッドをはじめ、アイスランドの新鋭シガーロスやアイルランドのU2といったヨーロッパのバンドの楽曲も積極的に取り入れた。
「そこがこの映画の狙いのひとつなんだよ。ポップカルチャーは今、非常にグローバルなものになっているよね? スペイン出身のペネロペ・クルスや英国のティルダ・スウィントンといったキャスティングに、レディオヘッド、U2、ピーター・ガブリエルたちの音楽。こうしたものを通して、映画全体をグローバルな雰囲気にしたかった」
サウンド・トラックには、ボブ・ディランやポール・マッカートニーといった大御所の名前も並んでいる。
「『バニラ・スカイ』という曲をポール・マッカートニーが歌ってくれてすごく嬉しかった。ビートルズっぽいタイトルだなと思ってたから。その主題歌をポール自身が歌ってくれたんだから、これでもうパーフェクトになったって感じさ。U2の『ワイルド・ハニー』も好きだ。素晴らしい曲なのに、あまり使われていない気がする。どれも、皆に聞いてほしい曲ばかりだよ」
こうした楽曲たちのひとつひとつに、物語を読み解くヒントが隠されているという。
「例えば、冒頭のシーンでかかるレディオヘッドの『Everything in Its Right Place』。『あるべき場所に存在するものは、すべてうまくいく』という歌なんだけれど、そううまく行かないのが現実世界なわけで。最初のシーンでこの曲を使うことによって、(トム・クルーズが演じる)デビッドのその後の運命を暗示したかったんだ」
このプロジェクトに携わることは、それだけで大きなチャレンジだったと、クロウは言う。
「この映画を通して、あるフィーリングをつかめたと思う。ひょっとしたら次回作はもっとチャレンジングな作品になるかもしれない。今はまだ先のことは分からないけれど、今回経験したことが大きな糧となって、絶対に次回作に生かせる気がしているよ」