トロイ : 映画評論・批評
2004年5月15日更新
2004年5月22日より丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にてロードショー
神話的要素を排し、それゆえの悲劇を紡ぎ出す
神と人間が溶け合い、運命や予言が物語を彩る。ギリシャ神話が何故私たちを魅了したかといえば、そんなロマンチシズム。悠久のロマンである。
ウォルフガング・ペーターゼンが「イリアス」を映画化すると聞いたとき、真っ先に期待したのはそんなロマンだった。だが、彼がとったアプローチはヒーローたちの生き様を描くこと。栄光に囚われたアキレス、人生を母国に捧げるヘクトル、ぶざまな醜態を晒すパリス、権力に執着するアガメムノン……。
神話的要素を排除して、彼らのそれゆえの悲劇を紡ぎ出す。これは、時にこの物語が3000年も前のものだということを忘れさせ、もしかするとその普遍性を目指したのかと気づかされる。
もちろん、このアプローチは間違っていない。演じるピットもバナも対極のヒロイズムを体現しつつ、セクシーかつアクティブな魅力を発揮する。パリスの怒りさえ覚えるヘナチョコぶりもオーランドにはぴったりだ。しかも、女性ファンが大喜びしそうなサービスショットが満載だし。
が、それでもロマンをひとつまみ入れて欲しかった。ときめき夢を馳せたあの時代のロマンチシズムを感じさせて欲しかったと思うのだ。
(渡辺麻紀)