劇場公開日 2001年4月14日

スターリングラード : インタビュー

2001年4月17日更新

「プライベート・ライアン」にも匹敵する、冒頭の戦闘シーン。2人の天才スナイパーの鬼気迫る一騎打ち。第二次大戦中、死傷者80万人を記録した壮絶な“スターリングラードの戦い”をテーマに、芸術的な映像センスでこの意欲作をものにしたのは、フランスの名匠ジャン=ジャック・アノー監督。「セブン・イヤーズ・イン・チベット」以来久々の新作となった本作の公開直前、我々は監督に取材する機会を得た。

ジャン=ジャック・アノー監督 インタビュー

(小西未来)

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「スターリングラード」の冒頭の戦闘シーンはとにかく圧巻だ。降り注ぐ銃弾のなか、ろくに訓練も受けていないロシア新兵たちが、敵陣への突撃を命じられる。バタバタと兵士が倒れていく地獄絵図は「プライベート・ライアン」の戦闘シーンと比較されるほどの臨場感だが、ジャン=ジャック・アノー監督は、他の戦争映画は一切参考にしていないと言う。

「映画を作るときはいつも、同じジャンルの映画を見ないようにしないようにしているんだ。影響されてしまうのが怖いし、『ああ、これは別の映画でやっていたからやめよう』、とリアクションで映画を作ってしまうことの方がもっと嫌だからね」

アノー監督は保存資料やニュース映像を頼りにこの壮大なシーンを作りあげた。カメラ7台にエキストラ700人を動員した大がかりな撮影だが、ラブシーンの演出に比べたら、簡単だったと監督は言う。

「ほかのシーンは再撮影をしたりして、修正することができる。しかし、ラブシーンの場合、最初のテイクで男女の息がぴったり合わなければぜったいにうまくいくことはないんだよ。いくらテイクを重ねても、悪くなるだけだ。例のラブシーンを撮る前の晩、わたしは緊張して眠れなかったんだ。そんなに不安になるなんて、わたしにはめったにないんだよ。何百人ものエキストラを使ったアクションシーンを撮る前の晩だって、ぐっすり眠れるのに(笑)」

監督が唯一緊張したという、ジュード・ロウとレイチェル・ワイズのラブシーンは、息を飲むほどリアルで魅力的な瞬間である。「ラマン/愛人」「セブン・イヤーズ・イン・チベット」といい、アノー監督はどうしてセクシュアリティにこだわるのだろうか。

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「ラブシーンは、人間が唯一、ルールや文化などすべてを捨てて、もっとも根元的な姿になる瞬間だから。そこには、スピリチュアルな美しさがある。そのシンプルさを、わたしは愛しているんだ」

アノー監督はフランス人であるにもかかわらず、ベトナム(「ラマン~」)、チベット(「セブン・イヤーズ~」)、そして今回のロシアと、外国を舞台にした映画が多い。

「いつも遠いところに憧れるんだ。地理的に遠いところだけじゃなく、時代的にも、現代よりも遠いところに。人生には、時間的にも経済的にも限りがある。だから、なるべく多くの人生を生きてみたいと思うんだ。映画製作にはだいたい3年ぐらいかかるんだが、ひとつの作品を終えるたびに、わたしは違った感覚と、知識を身につけることができる。『ラマン』の撮影を終えたあと、フランス料理が食べられなくなっていたんだ。ベトナム料理が常食になっていたからね。そういう経験を重ねていきたいと思ってるんだよ」

映画は自分にとって学習プロセスであり、同時に子作りのようなものでもあると監督は言う。「スターリングラード」という作品を「出産」したばかりのいま、次回作の予定はまだない。

「まずは新しい〈恋人〉を見つけなくてはね」

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