日本の社会派映画にはとかく問題を組織や制度の問題に解消して、「後は観客が考えて投票しましょう」というバカげた結末の作品が多い。
この系統の映画の特徴は、例外なく人間ドラマを喪失して、何だか社会学系の書物を読んでいる気になってくる点にあり、ちょっと賢い観客からは「そんなことはみな教科書に書いてあるよ」と小馬鹿にされてしまう、という有様である。
ところが同じ社会派映画でも、男一匹ロバート・アルドリッチは断固として違うw
「制度? 組織? そんなものは犬にでも喰われてしまえ」と言わんばかりに、男のドラマのみを追求する
刑務所の暴力的受刑システムを題材にした『ロンゲスト・ヤード』しかり、貧困にあえぐホーボーを取り上げた『北国の帝王』しかり、男と男の戦いのドラマという視点を絶対に手放さない。
そして本作である。これも第二次大戦中の米軍組織の不平等で恣意的な任官により、無能な軍人が指揮官となった結果、多くの兵士が犠牲になっている問題を取り上げながら、あくまで視点は男と男のケンカ映画なのである。
登場するのは、一人は人間的に不屈で部下思いの小隊長、いま一人は大人になりきれないまま多数の兵士の生死を左右する中隊長になってしまった男。
この2人の約束と裏切り、裏切られた者の憎悪と怨念、逃げた者のあがきと、多数の兵士の死を巻き込んだ戦いをドイツ軍との戦いそっちのけで描いている。
戦争映画としてはあまりに異色な本作は、骨太な人間ドラマを描いた傑作であり、だからこの白黒映画がいまだにテレビで放送され、毎年ファンを増やしているのだと思われる。