ザ・ロイヤル・テネンバウムズ : 映画評論・批評
2002年9月2日更新
2002年9月7日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
家族はとっくの昔から壊されていたんだから
たまに実家に帰って気づくのは、かつての父親の威厳が地に落ち、母親がやたら元気であること。まあ、僕の家の場合はそうなる事情もあるんだけど、母親のグチめいた思い出話を聞くと、子どもの頃に信じていた“父親の威厳”がある種の演出だったとわかる。ひとつの家族が健全な外観で維持されるには、父親が男性らしく母親が女性らしくあるほうが自然だけど、そこには家族が自然らしさを装うためのフィクションが介在しているわけだ。
ウェス・アンダーソン監督の新作を見ると、“父親の威厳”の崩壊にアメリカの家族が直面しているんだなあ、と実感できる。これは同じ名前で同じく若き天才監督による「マグノリア」でも描かれた事態で、若い時に過激な男性をアピールし、何人もの女を渡り歩いて家族に迷惑をかけつつ社会的には成功した父親たちが、その“威厳”を維持しえなくなったときに家族が陥る光景を描く点において2本は類似する。
ただ、お笑いの要素も満載のこの傑作が提示するのは、あくまでも“父親の威厳”というウソに騙されなくてすむ僕たちが幸福であるということ。家族はとっくの昔から横暴なる“父親の威厳”によって壊されていたのだから……。バラバラな僕たちは、“父親の威厳”や“母親の犠牲”抜きに、恋人や両親や兄弟姉妹と一緒に有意義な人生を歩む方法を模索しなければならない。
(北小路隆志)