劇場公開日 2002年7月20日

ピンポン : インタビュー

2002年7月24日更新

大評判の「ピンポン」を熱愛するミルクマン斎藤氏が、監督にインタビュー。なぜこの原作を? デジタルドメイン出身の監督得意のVFXは? 注目作のビハインドと監督自身の必見シーンを大紹介だ!(ミルクマン斎藤)

曽利文彦監督 インタビュー
「90%はCGなのに、出演者たちは“球があるのが判る”って言うんです」

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幅広い観客に観てみたいと思わせるメジャー感のある映画。……「ピンポン」はそんなふうに言い切ってしまえる日本では珍しい作品である。作家性は強くても一般的な訴求力に欠けたり(映画好きは喜ぶが)、観客動員数に見合った中身の伴わない映画(映画会社は喜ぶが)が多いなか、これほどストレートでオーソドキシーな力を持った映画というのはほんとうに久しぶりかも知れない。ところが本編を監督した曽利文彦、映画・TVを問わず俳優を使った演出ははじめて。現在もTBSのCG部に在籍するベテラン特撮マンである。それにしてもVFXがオモテにしゃしゃり出た映画とは一見ほど遠い出来ではあるが……。

「じつは全体の4分の1、300カットくらいCG処理してるんです。でも、もともと子供のときから映画監督になりたいっていうのがあって、特撮がなくてもいいから映画らしい映画を撮りたいというのが先にありましたね。でも10年以上特撮とかCGの仕事をやってきたんで、それが活かせたほうが人と違うものができるだろうと。だからそんな原作を探してたんです。そのときに出会ったのが『ピンポン』。松本大洋さんの作品はもとから好きで。でもあのインパクトのある絵に引っ張られて、ストーリーはそれほど読み込んでたわけじゃないんですが、たまたまじっくり読んでみて“あ、これだな”と瞬間的に思いました」

驚くべきことに、ピンポン・シーンの90%くらいはCGの球だそうである。知ったうえで観返してみても絶対判らない。

「俳優さんは完全に振り付けというか、素振りです。でも結局2カ月くらい特訓してもらったんですよ。それくらいやると、みんな若いんで凄く上手くなって、本当にかなり打てるんです。でも今回の設定はスーパー・プレイヤーですから、あとで球をCGで入れたんですけど。結局それはオマケみたいなもんで、あの素振りの迫力と美しさがすべてでしたね。球がない中で撮影してたわけですけれど、その時点でほとんど完成品に近い絵ができてました。大げさな話じゃなくて、演ってる本人たちは“素振りしてると球見えてくる”って。“球、あるの判る”って言うんですよ。で、カメラマンも見えてない球、ずっと追ってるんだから凄い」

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終盤のインターハイ・シーンは大迫力だが、撮影期間の短さにも怯まず、綿密なコンテを描いてすべて撮りきったという。しかも観客や球はすべてCG。ステディカムを多用した映像にそれらを描きこんでいくのは大変な作業量だったという。

「リュック・ベッソンもとても感心したって言ってくれましたけれど、最後のペコとスマイルの試合のシーン。あれは延々と打ちあい続けて終わりたかったんですね。いつまでもふたりで遊んでいる、っていう感じがどうしても欲しかった。それも俯瞰から螺旋状にぐるっと回って降りていくのをワンカットで。大変だというのは判っていましたが、球を描いてみればホントに打ち合ってるように見えてしまう。それはやっぱり感動しますし、そう見えてしまうというのが面白いですね」

脚本を担当した宮藤官九郎と主演の窪塚洋介は、曽利がCG部分で参加したドラマ「池袋ウエストゲートパーク」のすぐあとに打診したのだとか。ふたりとも今なら簡単には捕まえられないだろうが。

「漫画の中でしか喋れない台詞ってけっこうあると思うんです。実際に人が口に出すとちょっとヤバいな、という。でも宮藤くんは役者でもあるし舞台を踏んでるんで、声にして不自然な台詞はない。一見原作と同じようにみえるけど、松本大洋のキーワードを上手く韻を踏みながら、ぜんぶ人が喋れる言葉に脚本で置き換えてるんですね。そこが彼の高等テクニックなんだな」

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