ロード・トゥ・パーディション : 特集
撮影監督がオモシロイ!
「ロード・トゥ・パーディション」で、トム・ハンクスやポール・ニューマンの名演、感動的なストーリーと同時に強烈な印象を残すのは、その画作りのすばらしさ。この撮影を担当したのは、当代きっての名手コンラッド・ホール。そこで、この機会に現在活躍中の名カメラマンをチェック。カメラマンを意識して観ると映画がもっとおもしろくなるぞ。
パート0:撮影監督って何?
映画のクレジットでは「シネマトグラファー」、日本語表記では、撮影、撮影監督、カメラマン、などと表記されるこの職業、何をする人なのかといえば、一言でいって「撮影の仕切り」。カメラをどこに置いてどう動かすか、レンズは何にするか、照明は何をどこにおくか、フィルムは何を使うかなどを仕切るのが仕事。その下には実際の作業をするスタッフが山のようにいる。まさに撮影方面の監督=撮影監督なのだ。
今は脚本とは別に詳細なストーリーボードが用意されるが、それはあくまで素案。現場で変わるし、そのままの画作りをするとしても、実際の画面のタッチを左右するのは、撮影監督の力量。基本的なコンセプトは監督のものだが、実際の映像は撮影監督が作るのだ。
例えば、人物の背景にはどの程度焦点を合わせるのか、といった細部の判断で撮影監督のセンスがものをいう。また、レンズや照明の選択によって映り方が変わるのでメイクアップ担当や衣装担当と入念な打ち合わせとテスト撮影をするのも彼らの仕事。こうした細部の積み重ねで、画面が作られていくのだ。
映画はまず視覚と聴覚で感受するものだが、中でも視覚で受け取る情報が基本。撮影監督が映画に及ぼす影響は絶大なのだ。
パート1:そこで「ロード・トゥ・パーディション」をチェック
撮影監督のコンラッド・ホールは、60年代から活躍する大ベテラン。アカデミー賞撮影賞を「明日に向かって撃て!」(69)で受賞、その後、計7回もノミネートされ、本作の監督サム・メンデスの第1作「アメリカン・ビューティー」(99)で2度目のオスカー受賞を果たした、当代きっての名手。メンデス監督は「彼の芸術的な照明は、ストーリーに想像もしなかった側面を与えてくれる。現場でライティングに時間がかかってイライラすることもあるけど、試写を見るとコンラッドに会わせてくれた神に感謝したくなる」とその手腕を絶賛する。
ホール自身によれば撮影とはこのようなものだ。
「撮影では、どこにカメラを置くか、それを動かすか静止させておくか、照明は要るか要らないか、それらを自分がほしい情感を与えてくれるかどうかで判断する。目の前にあるものが自分のプランとあまりにかけ離れているときは監督に言う。監督も撮影監督も基本は物語の語り手だ。ただ、語るのに言葉を使ってないだけでね」
「ロード・トゥ・~」で彼が意識したのは、例えば登場人物たちの帽子が顔に落とす影。「強いライトを真上から当てるとすばらしい影ができた」。レンズは基本的にワイド・オープンにした。「焦点は人物だけに会わせて、前景も背景も、ごくごくわずかにピントをぼかすようにした。画面の色は暗い寒色系ばかりなんだが、画面がソフトな感じになる」。
26年タヒチ生まれのアメリカ人。父は小説家。南カリフォルニア大を出て映画の世界へ。息子、コンラッド・W・ホールも同じ道に進み、デビッド・フィンチャーの「パニック・ルーム」(02)で2度目の撮影監督を務めた。
撮影というアートの秘訣を聞かれた彼の返答はこうだ。「アートのことは知らないが、ストーリー・テラーとしていい仕事をするには、普通の生活人でいることだ。そうじゃないと、画面を通して観客とコミュニケートすることができなくなる。感情的にも知性的にもね」