「恋するパンチドランカー」パンチドランク・ラブ Fractleさんの映画レビュー(感想・評価)
恋するパンチドランカー
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プリズミックな色彩感覚に優れた切り絵のようなジャケットが目を引く。それはお伽話の一場面のようだ。本作はキレやすく情緒不安定な男のちょっと変わったパンチドランク・ラブストーリーである。混乱したバリー・イーガン(アダム・ドライバー)の心象風景により,観客も混沌の渦に巻き込まれる。軸はシンプルなラブストーリーなのだが,そこにテレフォン・セックスが絡んでくる展開が可笑しい。ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品は一筋縄にはいかない。安いプリンを買ってマイルを貯め,海外旅行に行く話も,テレフォン・セックスの元締めディーン・トランベル(フィリップ・シーモア・ホフマン)からイーガンがしばかれる件もなんだか現実感がない。しかし,掴みどころがなく,浮遊感に満ちているこの映画にリアリティがないという批判は当たらない。この映画は社会不適合である主人公が夢幻と現実を往復するなかで,恋を成就させていくすてきな物語なのである。その不器用で可憐な心理は現実に深く根差している。監督は,本作を「当て書き」したという。この物語はアダム・サンドラーのもので,代替不可能な作品に仕上がっている。
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