劇場公開日 2003年7月26日

パンチドランク・ラブ : インタビュー

2003年7月22日更新

「ブギーナイツ」や「マグノリア」など、人生の痛みに直面した人々による、複雑かつ緻密な構成の群像劇を得意としていたポール・トーマス・アンダーソン監督が、シンプルでハッピーで強烈なラブストーリーを完成させた。その変化の裏側にあるものは一体? 町山智浩氏が監督に直撃した。(聞き手:町山智浩)

ポール・トーマス・アンダーソン監督インタビュー
「恋なんてパンチドランクみたいなものさ」

アダム・サンドラーの青空色のスーツ、彼の人生を変えるきっかけになるハーモニウム(小型オルガン)、その他、「パンチドランク・ラブ」で使われた衣装や小道具のすべてがポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)の事務所の床に放置されていた。

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「ここの周りでロケしたからね」

PTAの事務所はスタジオ・シティにあった。その名の通りユニバーサル、ワーナー、ディズニー、それにNBCテレビのスタジオが並ぶ町だ。

「僕はここで生まれて、ここで育ったんだ」(父はテレビのナレーター)。

スタジオ・シティはロサンジェルス北部の通称「ザ・ヴァレー(谷)」にある。ヴァレーの北、サンフェルナンド地区はハードコア・ポルノのメッカで、ポルノ業界を描く「ブギーナイツ」はそこで撮影された。「マグノリア」でカエルの雨が降るマグノリア通りもPTAの事務所の数ブロック北を走っている。

「『パンチドランク・ラブ』でアダム・サンドラーが働く倉庫も、彼がプリンを買い占める99セント・スーパーもみんなご近所だ」

ハリウッドの隣で生まれ育ちながら、なぜ頑なにスタジオの外でこじんまりと映画作りを続けるのか。

「音楽のように映画を作りたいからさ。レコードを録音する時は思い付きを気楽に試してみて、ダメだったらその場でやり直せばいい。でも大人数と予算をかけたハリウッド映画ではそんな試行錯誤は許されない」

ポール・トーマス・アンダーソン監督
ポール・トーマス・アンダーソン監督

「パンチドランク・ラブ」の総製作費は2500万ドル。アダム・サンドラーがハリウッド映画「アンガーマネージメント」で受け取った出演料と同じだ。サンドラーはPTAと意気投合して700万ドルという格安のギャラで出演を引き受けた。

「2人でアイデアを出し合って主人公バリーのキャラクターを作っていった。レストランでバリーがキレる場面はアダムの即興だよ」

「ブギーナイツ」「マグノリア」と10人以上の視点が入り乱れる3時間近い群像劇を作ってきたPTAだが、今回はバリー1人に絞って90分にまとめた。

「チャレンジだよね。群像劇のように展開に詰まって別の人物の話に逃げるというわけにはいかない。それに『マグノリア』が重くて長かったから、スウィートで小さなラブストーリーを撮ってみたかった」

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インタビュー2 ~ポール・トーマス・アンダーソン監督インタビュー(2)
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