「みえないリスク」パニック・ルーム Ana-phylaxisさんの映画レビュー(感想・評価)
みえないリスク
とても好きで何度も観ている作品。
感じるままに考察するなら、この作品のテーマの一つは人種差別による社会格差だと思う。
OPクレジットが、NYの街並みに溶け込むように出てくるところ、確かにそこにあるのに目に入らない感覚。だけど不気味に横たわっているもの。
これが、一見するとその存在に気が付かないパニックルームそのものであり、社会の中で当たり前になってしまっている人種格差まで暗喩しているように思えた。ゆったりと底に流れるウッドベースも良い。
主人公は、富裕な大学教授に浮気され離婚したばかり。元旦那への「あてつけ」で、パニックルーム付きの豪邸を慰謝料で購入。娘と2人、精神はどん底。
そこへ、3人組の泥棒が侵入してくる。首謀者は元所有者の孫である金持ちのボンクラ。計画を可能にしたのは勤勉で賢いにも関わらず、真面目に働いても報われることがない黒人労働者。そこに得体の知れない銃を持ったならず者が急遽加わり事件は起こる。
黒人(バーナム)が人質になった娘に述懐する場面、「俺の娘もこんな家に住めたら…でもどんなに頑張ってもどうなもならないことが…こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃ…」
離婚して腹いせに豪邸を買う”悲劇の”主人公と、とてつもない対比を見せている。どちらもアメリカ的な不幸だが、片方は次元の違う、逃れようのない不幸。
結果的に全ての犯行を可能にしたのが、人を傷つけることに最も乗り気ではないバーナムというのが趣深い。この社会を危険たらしめているものは一体なんなのか?それが浮き彫りにされている。
ラストシーン、母娘はベンチで次の新居を探す。その顔にはまだ傷が残っているが、表情は晴れやかで幸せそうなのだ。
それは、ピンチの時に元旦那(父親)が駆けつけてくれたこともあるかもしれないが、きっと自分たちの幸運に2人が気づいたからに違いない。
とても象徴的で寓話的な作品。