「タイトルなし(ネタバレ)」オペラ座の怪人 まゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
私の場合ミュージカルを受け入れられるかどうかは作品によるのですが、こちらは1回目は予備知識ゼロで鑑賞、2回目は非常に感動。素晴らしかったです。解釈が違う場合はお許あれ、以下個人的な感想。
言わずと知れたミュージカルの金字塔。
こちらの作品は2回目見ると全然違う!もう序盤の楽曲「Think Of Me」が1回目とは全く違って聴こえる。初めて聴いたときは、クリスティーヌからラウルへの愛を歌う曲のように感じるが(ラウルが途中から歌に参加するので余計そう感じる)、これはファントムへの愛の歌だ。「私たちが分かち合い、見てきたものを全部思い出して。でも、こうなっていたかもしれないとは考えないで。起きているときも黙っているときも、あきらめた時も私を思い出して。あなたを忘れようと必死な私を想像してみて。あの頃の思い出を振り返ってみて。…(略)あなたを思わない日は一日だってないの」2回目はしょっぱなから涙腺崩壊である。
クリスティーヌは結局ラウルを選び結婚し、子どもももうけるのだが、きっと二人ともことあるごとに思い出したであろう、ファントムの存在を。たとえば赤いバラを見るたびに。ろうそくを灯すたびに。音楽を聴くたびに。…つ、辛い。
クリスティーヌは結局ファントムとラウルのどっちが好きだったの?問題は、私はファントムだと勝手に確信している。もちろん両方好きだったろうけど、この作品は「ファントムとクリスティーヌのお話」だと思う。
「The Point Of No Return」は、もう言葉にならない。最高だった。エロい。大人の男の魅力は計り知れない…クリスティーヌにとってファントムは父親みたいな男性であると同時に音楽の師匠なわけで、芸術の高みを見せてくれる特別な存在。ラウルは若くて金持ちでイケメンで乗馬も歌もうまくて(白馬にまたがって助けに行くシーンは完全に王子様である)、幼馴染だからクリスティーヌの実父も知ってる。どう考えてもラウルの方に軍配あがる。しかしだ、若い女の子は危険な大人の魅力には弱いのだよ…しかもクリスティーヌはファントムから「私は音楽の天使だよ」って洗脳されてるからね。このシーンのラウルの表情が本当にリアル。「ま、負けた…」って感じ笑 もう泣きそうになってる。
「ここに来たからには後戻りは出来ない もう元には戻れない 私たちの情熱の受難劇が始まる 正しいのか過ちなのかもう分からない ここに来たからには後戻りできない ここが最後のドア もう橋を渡ってしまった あとはそれが燃え落ちるのを見守るだけ」この歌詞で、お互い非常にセクシーな絡み方でラウルの目の前で歌い上げるんである。ラウル、元気出せ。
「All I Ask Of You」
これはそもそもラウルとクリスティーヌの愛の歌なんだが、ファントムも同じ楽曲をクリスティーヌの手を握りながら歌っている。ラウルは「僕が君の孤独から救い出す」と歌っているのに対し、ファントムは「この孤独から私を救ってくれ」など、歌詞がちょっと違う。1回だけの視聴だとどうしても物語の筋を追うことが先行するので、作品の意図や楽曲まで気を配るのがなかなか難しかったように思う。ここで多分クリスティーヌは洗脳が解けるのよね、で、彼女がファントムの仮面を剥がす。
「My Dear, IThink We Have A Guest」
ラウルの首に縄をかけて、ファントムがクリスティーヌに自分のものになるよう迫る場面。クリスティーヌは「歪んでいるのはあなたの顔じゃない、心だ」と言い放つ。そう、やっと気が付いたね、クリスティーヌ。
「あなたは哀れな闇の生き物だ、愛されたことがない人生を送ってきた。神様から与えられた勇気で示そう、あなたは独りじゃない」と言ってファントムにキスをする。メンヘラでストーカーで、幼少期は見世物にされていた顔面オバケの怪物が、美女のキスで生まれて初めて愛を知るシーンだ。ここで初めてファントムは悟る。彼女の心までは手に入らないということに。苦悩の表情を浮かべ、ファントムはついにこう言う。「私を忘れろ、このことは全部忘れろ」
くうう~~~っっ、ファントム!罪な男よ…!
これ、言われたら絶対忘れられないの確定なのだよ。ラウルとクリスティーヌの結婚では呪いの言葉になっただろう。一回言われてみたいもんです、「俺のことは忘れてくれ」って。
ファントムとクリスティーヌの関係性がカギかなと思う。
父親であり、師匠であり、尊敬、感謝、哀れみ、同情、恋、愛、プラトニック、肉欲、いろんなものを感じる。そして人はボロボロになって結ばれなかった恋愛こそ、死ぬまでずーっと思い出すからね。
ちょっとググって驚いたのだが、原作はガストンルルーの小説でこちらの映画はウェバー版だと思うのだが、コピット版やケイ版などあり、さらに1989年版では…とか、少しずつ違うらしい。クリスティーヌがファントムを殺して終わるものとか、クリスティーヌがファントムに仮面を外すよう頼んでファントムが自身で仮面を外すとか、クリスティーヌの自慰のシーンがあるとか、生まれた子どもがファントムの子であることを匂わしてるバージョンも。いろいろ妄想が広がるような、それだけ面白い作品なのだと思う。
実際、オペラガルニエでは過去にシャンデリアが落下する事故が起きていて、死者も出ている。地下に貯水池があるのも事実で、劇場が湿地帯にあるため建設中から出水に悩まされており、その水を貯めるために作られたようです。現在はパリ市の消防署が管理しており、数年に一度水を抜いて大掃除をしているらしい。
それぞれのシーンで、それぞれテーマがあり、登場人物がその気持ちをどう歌うかが見せ所で、各シーンで「さあ、どんな歌を聴かせてくれるんだ?」と期待を高めながら鑑賞するのがオペラやミュージカルの「型」なのだと思うのだが、突如歌やダンスが始まるとどうしても慣れてないもんでびっくりしちゃうんである。2回目はだいぶ慣れて(?)違和感は全く感じずに没頭できました。
ジェラルドバトラーがただただイケメン。歌はいまいちだが許す。映画なのでスクリーン映えは必須というところが彼に味方している。