マルホランド・ドライブ : 映画評論・批評
2020年8月18日更新
2002年2月16日よりシネマスクエアとうきゅうほかにてロードショー
デビッド・リンチによる辻褄合わせが、想像を絶するレベルで成功した奇跡のような一本
本作は、もともとデビッド・リンチが米4大ネットワークのABC向けに、テレビシリーズのパイロット版として作ったものです。リンチとABCは、過去に「ツイン・ピークス」で大成功を収めていますが、今回のパイロットはボツになりました。しかし、後にフランスの会社がその権利を買い取り、長編映画としてリンチに発注し直し、出来上がったのが「マルホランド・ドライブ」なのです。
ここから先は、「マルホランド・ドライブ」に関する1つの解釈ですが、かなり正解に近いと思います。思いっ切りネタバレしてますので、本作を未見の方や「謎解きは自力で行いたい」という方は、お読みにならないことをお勧めします。
単刀直入に行きますよ。「映画の冒頭からクラブ・シレンシオを経て、青い箱を開くところまではナオミ・ワッツ演じるダイアン・セルウィンの夢。そこから後が現実の物語で、ダイアンの回想シーンが少々混じる」というのがザックリの解釈。青い箱のシーンの直後、カウボーイがベッドで眠るダイアンに「起きる時間だ」と告げるので、そこまでは夢ということで間違いないでしょう。
ダイアンの夢では、彼女(夢の中ではベティ)が「ハリウッド女優として成功の足がかりをつかむ」「リタという美しい女性と愛し合う」という内容が描かれます。そしてその夢には、うまくいってない現実の裏事情(あるいは言い訳)が散りばめられています。
現実の世界では、アダム・ケシャー監督作の主演女優を射止めたカミーラ・ローズ(ローラ・エレナ・ハリング)は、監督と恋仲になっています。しかしダイアンの夢の中では、カミーラはリタと名乗り、ダイアンと恋に落ちます。そしてケシャー監督は、主演女優を自分で選ぶ権利がない。映画の出資者と覚しき「エスプレッソの男」が写真を突きつけ「この女優を使え」とねじ込んできます。写真にはブロンドの女優が映っていて、「カミーラ・ローズ」と書かれています。現実のカミーラとは別人ですが、「カミーラ・ローズという女優は、実力で選ばれたわけではないのよ」という、ダイアンの黒い願望が読み取れます。
ダイアンの夢は、特にケシャー監督にひどい嫌がらせをします。主演女優をごり押しされたケシャーが立腹しながら自宅に帰ると、妻がマッチョな男と浮気の真っ最中。ケシャーは間男に殴られ、自宅を後に。ひとりホテルにチェックインしますが、クレジットカードが無効になっており、事務所のアシスタントに「あなたは破産したようだ」と告げられます。
アシスタントの指示で、夜更けに「カウボーイ」という男に会いに行くと、その男から「態度が尊大だ」とか難癖をつけられたあげく、「主演女優を選ぶことができない件」を念押しされる。「監督が一番エラいってワケじゃないのよ」というダイアンの意地悪でしょうか。
終盤、ケシャー監督のプール付きの邸宅で行われるパーティーのシーンがあります。現実のシーンです。ここにカミーラ・ローズ役の女優、エスプレッソの男、カウボーイといった主要なメンツが登場しています。これらのメンツを使って、ダイアンは夢を構築している。そしてここに至ってようやく、ベティがダイアン・セルウィンであり、リタがカミーラ・ローズであり、前者は売れない女優、後者は成功した女優であることが判明するのです。
その後のストーリーは見ての通り。この映画は、悲しい結末で終わるラブストーリーです。
もともと、テレビシリーズとして撮影された部分がどれで、後から追加撮影した部分がどこなのか、正確には分かりませんが、いずれにせよ、デビッド・リンチによる渾身の辻褄合わせが、想像を絶するレベルで成功し、傑作となって蘇ったという奇跡の一本だと言えましょう。18年ぶりにじっくり鑑賞して、改めて感服しました。そして理解できました。
以上「マルホランド・ドライブ」が面白いと思った方は、「ツイン・ピークス The Return」にも是非チャレンジしてみてください。そっちの謎は、全然解けないんですけどね。
(駒井尚文)