ライフ・アクアティック : 映画評論・批評
2005年4月28日更新
2005年5月7日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
これが映画だ。面白くないはずはない!
才能あるアメリカの若手監督たちの中にあって、「ライフ・アクアティック」のウェス・アンダーソンが特別だとしたら、それは狂暴とも言えるほどの「普通さ」によるものではないかと思う。つまり、映画はこれくらいやるのが当たり前だ、という映画を作る前提の広がりが格段に広いのだ。
たとえば、すでに時代遅れになってしまった冒険・海洋ドキュメンタリーを作る主人公たちの探査船の内部を歴史あるイタリアのチネチッタ撮影所の手により作り上げ、その内部階層の断面をクレーンによる移動撮影により一気に見せてしまうという力業は、「タイタニック」のジェイムズ・キャメロンの無謀さに比べられる。また、想像上の海洋生物の造形をいかにも古風なCG以前の手法によって撮影するというキッチュな感覚は、ティム・バートンの一連の作品に匹敵する。そしてさらに、いくらでもエキセントリックな演技をすることの出来るビル・マーレイと共に、かつてのアメリカ映画の主人公にふさわしいまっすぐな姿勢で前を見つめる男の姿を作り上げ、しかもどこか弱々しいつぶらな瞳をはっきりと映す。そんなアメリカ映画の現在と過去、尊大さと女々しさを、この映画は持つ。主人公たちが航海するのは、その大きな広がりの中なのだと言ってもいい。これが映画だ。面白くないはずはない!
(樋口泰人)