世界最速のインディアン : インタビュー
ロジャー・ドナルドソン監督インタビュー
───ロサンゼルスからソルトフラッツまで、バート・モンローはさまざまな人たちから善意をもらっていて、ファンタジーのようなロードムービーになっていますね。あの旅のエピソードは何%ぐらい本当の出来事なんですか?
「ほとんどは、バートが経験したことに基づいている。彼がはじめてアメリカへ渡った1962年から、何年も連続して行ったわけで、その数年の経験を絶妙に混ぜ合わせたものなんだよ。彼がはじめてアメリカへ渡るとき、まわりのみんなから、アメリカは怖いところだ、なんて吹き込まれて行ったわけだね。それで、ハリウッドに着いた。ハリウッド・ブールバードがどんなにステキなところかと思っていったら、フッカー(売春婦)やドラッグディーラー(ヤクの売人)がウヨウヨいて、怖かったそうだ。それで、コーヒーショップに行ったら行ったで、チップを払わなくはいけなくて、どう払っていいか、わからなかったらしい。当時、ニュージーランドにはチップ制度がなかったんだね。彼は1ドルのコーヒーを飲んで、1ドルのチップを置いてダイナーを出たという。そしたら男が追いかけてきて、トントンと肩をたたいた。強盗かと思ってビクついたら、“あなた、100ドル置いていきましたよ”と善意で追いかけてきてくれたウェイターだった。映画にもあるけど、アメリカは紙幣の大きさも色も一緒で、1ドルも100ドルも見分けがつかなかったというんだな(笑)。
彼が受ける“善意”の数々についてだが、いつの世の中も、結局のところ悪人よりも善人が多いということだ。この映画は、世界中の善人へのオマージュを捧げているんだよ。バート・モンローは実際に、善意を受けなければ、世界記録を出せなかったんだ。バートが体験した出来事はほぼ100%、彼がリアルに体験した出来事に基づいているよ」
──主演のアンソニー・ホプキンスについてです。「バウンティ/愛と反乱の航海」(84)の時は、監督にとって“いい人”じゃなかったみたいですが?
「ああ、あの時は殺してやりたいと思ったよ(笑)」
──あの役柄がそうですもんね。
「『バウンティ』の時、彼はパラノイアみたいな役柄だったし、役柄に没頭していたのはたしかだ。私も大作は初めての駆け出しの映画監督だったし、トニー(アンソニー)は初めてのハリウッドの大物スターだった。こちらも緊張していたし、さまざまな行き違いがあって、実際に現場では衝突してばかりだった。撮影が終わると、ネバー、エバー、2度とこいつとは映画を撮りたくないと思ったし、ハリウッドでもっとも嫌いな人物がアンソニー・ホプキンスだった。ところが、00年にディノ・デ・ラウレンティスが名誉オスカー(アービング・タルバーグ記念賞)を受賞したパーティで、彼を見かけてしまったんだ。よく考えれば、ハンニバル・レクター博士を演じているから、彼が招待されるのは当然なことなんだがね(笑)。向こうに見かけたクソ野郎に挨拶しようかどうか悩んでいると、彼と目が合ってしまってね。向こうのほうから彼が近づいてくるじゃないか! なんて言ってやろうか、考えていると、彼が突然ハグしてきた。その瞬間、それまでの恨みつらみはすっかり忘れて、すっかり友だちになってしまったんだ」
──撮影中、アンソニー・ホプキンスはドナルドソン監督に、どんな善意の施しをしてくれましたか?
「彼はつねに前向きで寛大で、レクター博士とは真逆な人間なんだよ(笑)。この撮影中、トニーとは自分たちの父親に関して熱く語り合った。その話し合いが、バート像をつくるにあたって、彼と私のパーソナルに共感し合える部分になった。『バウンティ』の悪夢がウソのように、彼とは楽しく撮影できたよ」
──見た人誰もが、こんな夢いっぱいのオヤジがいたらいいなぁと思うはずです。
「トニーが演じたバートの姿に、観客のみなさんが自分の父親を重ね合わせてくれたら、うれしいよ」