世界最速のインディアン : 映画評論・批評
2007年1月30日更新
2007年2月3日より銀座テアトルシネマほかにてロードショー
スピード狂が夢を追いかける“ピュア”なロードムービー
ワルがひとりも出てこないことが、この主人公の男の夢を“ピュア”に感じさせている。なんて素敵なファンタジーだろうか。インディアンというバイクに人生を賭けたスピード狂の男が夢を追うロードムービーだ。ニュージーランド~ロサンゼルス~ユタ州ソルトフラッツまでの道すがら、主人公バート・モンローは数々の困った問題にぶつかるのだが、その都度誰かに助けられるか、独力で道を切り開く。プロット的に葛藤が引き起こされる原因となるのは、あくまで主人公の問題なのだ。年を食っていて身体にはガタがきているし、金もない。おまけにバイクのエンジンも“42歳”の骨董品なのだから。
であるからして、この映画に共感できるかどうかは、この男の夢を信じられるかだろう。人生を賭けても、絶対にゆずれない“好きなもの”がすでにある御仁は感動するはず。 40年以上にわたって、チューンアップを重ねる主人公を、アンソニー・ホプキンスが嬉々として演じている。世界最速のスピード記録をたたき出すことになる塩一面のスピードウェイ、ソルトフラッツに初めて立つときの、武者震いのような身ぶりに思わず涙が出た。すべてのイメージやユーモアが、掌編のようなファンタジーを祝福しているかのようだ。
(サトウムツオ)