劇場公開日 2004年12月4日

「認めて欲しくて暴走する男たち」Mr.インクレディブル 雨丘もびりさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0認めて欲しくて暴走する男たち

2024年1月31日
PCから投稿

昼休み返上で働いても評価されず、パワハラに耐え、家のドアを力任せに閉めたことある方は必見。超ド級の痛快アクションムービー!
見直すタイミングやその時の立場で、感情移入できるキャラが変わるリトマス紙のような作品。

【 認めて欲しくて暴走する男たち 】
ボブのスーパーパワー行使を、ヘレンは家族のためにならないから我慢してと厳しく抑えつける。
逆らえず居心地悪そ~にふるまうボブが、前に観た時は笑えたが今はなんかツラい(^^;)。
力を発揮しようとする度に「余計な事するな」と全否定され、承認欲を満たせずに暴走する男たちがストーリーを加速させてゆく仕掛け。生々しくてリアルだ。
特にインクレディボーイの、相手の迷惑や状況を省みない善意は、被災地難民などの迷惑行為を思い起こさせ、強く憤りを感じる。
(この描写をどうして「才能ない奴は何もするな」と解釈する人がいるかなぁ?(--;)邪険に扱ったことはボブも謝ってるし、そもそも自分勝手な努力で損害を生じたら罰されて当然)

【耐えられないほど耐えているのが普通】
この不快度指数80%の家庭において、長女ヴァイオレットの抱える悩みはさらに深刻だ。
母親の言いつけ通り普通の生き方をしていても、ちっとも幸せじゃないという不満でアタマの中がいっぱい。
おそらく、特殊な身体に産んだことを恨んでもいる。彼女がこれまで傷付けられ、周りから負わされてきた痛みを想うと悲しくなる。
「普通のフリするんじゃなくてわたしは普通になりたいの!」
あ。危ないなこの子、とピリついた。昨今の悲劇的な母子問題が頭をよぎる。
大荒れなディナーの場面、アニメだからドタバタで楽しいけど、実写だったら殺伐としすぎて観られない。

・・・そんな、言いつけ通りに生きていることを言い訳にして人生から逃げているヴァイオレットが、あるアクシデントを受けて萎縮してしまい、母親の期待に応えられなかった罪悪感から、自らの意志で歩き出し、事態を好転させてゆくまさかの展開を起こす。両親への反抗を示さずに自分らしい生き方を歩み始めるところ、オトナでかっこいい。

【家族それぞれの成長が導くハッピーエンドに激納得!】
ボブの浮気を疑った彼女が自分を責めて泣き伏すのは、家族を想うあまり抑え込むことしかしてこなかった不甲斐なさからだ。
独善的で無神経な悪妻&毒親じゃない。それがヘレンの表情を通して観客にも伝わるので、終盤の彼女の心境変化を素直に祝福できる。
自分/家族を守るための"力の抑止"から"力の行使"へと価値観が変わり、自分や家族を奮い立たせる様がとても素敵。惚れなおすわ(☆。☆)
一方のボブも、自分は特殊だが万能ではないという絶望を経て、ヘレンや家族の力を信じられるよう成長する。
ダッシュに 「ウチの家族大好き・・・!」なんて言われて、ボブもヘレンも嬉しいだろうね(^^)。

見直す時々で感想が変わるので、面白いしすごい映画だ。
「とがりすぎた長所に翻弄される苦労」が肌に馴染む人なら本作がハマるだろうし、
「どうにもできない短所を逆に利用して生きてゆく強さ」に涙する人はニモやドリーも訪れて欲しい。

・・・どうしよう、CGすごいってコトぜんぜん書けてない(・・;)
音楽が素晴らしいってことも、大好きなフロゾンやエロすぎるミラージュのことも、
人の話聞かないエドナが説明台詞要員として大発明なことも、
レトロフューチャーなデザインも、あぁぁぁ賛美し足りないッ!

あと1つだけ。
ディズニーの伝説的アニメータ、フランク・トーマス(八奈見乗児)とオリー・ジョンストン(瀧口順平)が登場し、「やっぱりああでなきゃ!昔みたいに」とほたほた喜ぶシーンが味わい深いですよ(^^)。

雨丘もびり