劇場公開日 2004年6月26日

「【89.4】ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 映画レビュー」ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【89.4】ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 映画レビュー

2025年8月9日
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作品の完成度
シリーズ第三作目にあたる本作は、それまでのクリス・コロンバス監督による児童文学的なファンタジー路線から、アルフォンソ・キュアロン監督によるよりダークで芸術性の高い作品へと大きく舵を切った記念碑的作品である。この変化は、主人公ハリーたちの成長と精神的な葛藤を深く掘り下げる上で非常に効果的に作用している。
物語は単なる善悪二元論から脱却し、ハリーの両親の死の真相や、アズカバンから脱獄したとされるシリウス・ブラックの真実をめぐるミステリーとして描かれる。その複雑なプロットは、時間逆転時計(タイムターナー)の概念を巧みに利用することで、物語の伏線を回収し、説得力を持たせることに成功。この脚本の完成度の高さは特筆すべき点。原作の魅力を損なうことなく、映画独自の解釈と映像表現で再構築した功績は大きい。
また、本作はそれまでの作品と比べ、ホグワーツ魔法魔術学校の日常や生徒たちの人間関係に、より現実的でシリアスな視点を取り入れている。制服の着こなしや私服姿の描写など、細部にわたる演出がキャラクターの個性や成長を際立たせ、観客の感情移入を深める。ハリーの内面的な孤独や思春期の葛藤、友情の試練といったテーマが、ファンタジーの枠を超えた普遍的な成長物語として結実。この完成度の高さは、ファンタジー映画の傑作としてだけでなく、優れた青春映画としても評価されるべきだろう。
アカデミー賞では作曲賞と視覚効果賞にノミネートされるなど、技術的な面でも高い評価を獲得。英国アカデミー賞でもプロダクションデザイン賞や視覚効果賞など4部門にノミネートされている。これらの事実は、本作が単なるシリーズの一作にとどまらず、映画芸術として多角的に優れた完成度を持っていたことの証左。
監督・演出・編集
アルフォンソ・キュアロン監督の演出は、シリーズに決定的な変化をもたらした。前二作の温かみのある映像から一転、暗く、時にホラー的な要素すら感じさせる不穏な雰囲気を創出。ディメンターの描写はその最たる例で、観客に視覚だけでなく心理的な恐怖も与えることに成功している。また、長回しや手持ちカメラによる撮影など、ドキュメンタリータッチの演出が、ホグワーツの日常にリアリティをもたらし、登場人物たちの感情をより生々しく伝える効果を生んでいる。
リチャード・フランシス=ブルースによる編集も、この演出スタイルを支える重要な要素。物語のテンポは早く、原作の膨大な情報を効率的に、かつドラマチックに伝えることに成功。特に、クライマックスのタイムターナーを使ったシーケンスでは、複数の時間軸を緻密に構成し、観客を飽きさせないスリリングな展開を創り出している。
役者の演技
ダニエル・ラドクリフ(ハリー・ポッター)
シリーズ第三作目、13歳という思春期の難しい年齢を迎え、ハリー・ポッターというキャラクターはより複雑な内面を抱えることになる。ダニエル・ラドクリフは、このハリーの葛藤を繊細かつ力強く表現。両親の死の真相に迫り、復讐心に駆られる一方で、友情や守るべきものへの責任感に揺れ動く少年の姿を見事に演じている。ディメンターに幸福な記憶を吸い取られるシーンでは、孤独と絶望を体現するような苦痛に満ちた表情で、観客の心を深くえぐる。また、守護霊の呪文を習得する訓練のシーンでは、決意に満ちた眼差しで困難に立ち向かうハリーの成長を説得力のある演技で示した。少年から青年へと向かう過渡期の複雑な感情を、全身全霊で表現した彼の演技は、この作品の核をなすもの。
ルパート・グリント(ロン・ウィーズリー)
これまでのシリーズと同様に、ルパート・グリントはコミカルな演技で物語に軽妙なタッチを加える役割を担う。しかし、ただの道化役にとどまらない成長も垣間見える。親友であるハリーやハーマイオニーを深く思いやる気持ち、そして彼らを守ろうとする勇気を、言葉や表情の端々から感じさせる。ピーター・ペティグリューの真実に直面した際の驚きと怒りが入り混じった表情は、物語の緊迫感を高める上で重要な役割を果たしている。
エマ・ワトソン(ハーマイオニー・グレンジャー)
エマ・ワトソン演じるハーマイオニーは、論理的で知的な優等生というこれまでのイメージに加え、より感情的で人間的な一面を見せる。ハリーやロンとの友情を何よりも大切にする彼女の姿は、物語の温かみとなり、観客に安心感を与える。特に、ハリーの無謀な行動を案じ、時には叱咤激励する姿は、彼女の強さと優しさを強く印象づける。クライマックスのタイムターナーを使ったシーンでは、冷静沈着な判断力と行動力を見せ、物語の鍵を握る重要な存在として、その演技は輝きを放っている。
アラン・リックマン(セブルス・スネイプ)
クレジットの最後に出てくる有名俳優の一人であるアラン・リックマン。彼の演じるセブルス・スネイプは、このシリーズを語る上で欠かせない存在。本作では、ハリーに対する不信感や憎しみ、そしてリーマス・ルーピン教授に対する複雑な感情が、彼の鋭い視線や皮肉めいた口調からにじみ出る。台詞の端々に漂う陰鬱な雰囲気は、スネイプというキャラクターの多面性と、まだ明かされていない過去を暗示。リックマンの演技は、物語に深みと謎をもたらし、観客を魅了し続ける。
脚本・ストーリー
原作の持つダークなトーンとミステリー要素を、より映画的に洗練された形で再構築した脚本。スティーヴ・クローヴスは、原作の膨大なエピソードを大胆に取捨選択し、主要なテーマである「真実の追究」と「ハリーの成長」に焦点を絞った。シリウス・ブラックの脱獄という事件を軸に、ハリーの両親と親世代の友情、そして裏切りという重いテーマを巧みに織り交ぜる。タイムターナーというギミックを物語の解決に用いることで、複雑な時間軸を扱いながらも、論理的な破綻を感じさせない見事なストーリーテリングを実現。
映像・美術衣装
ホグワーツの城やその周辺は、前作までのきらびやかな雰囲気を一変させ、より古びて、不気味さを漂わせる空間へと変貌。美術監督のスチュアート・クレイグは、ホグワーツのセットに現実感を持たせることで、ファンタジーとリアリズムの融合を試みた。生徒たちの衣装も、画一的な制服だけでなく、パーカーやセーターといった私服の着用が許され、彼らの個性がより際立つようになった。ディメンターのデザインも秀逸。その不気味な姿は、観客に生理的な嫌悪感を与えることに成功。これらの要素が、映画のダークで重厚な世界観を構築している。
音楽
ジョン・ウィリアムズが手掛けた音楽も、映画の雰囲気を決定づける上で重要な役割を果たしている。前作までの「ヘドウィグのテーマ」を基調としつつも、本作ではより不穏でサスペンスフルな楽曲が多数登場。特に、夜の騎士バスのシーンで流れるジャズ風の軽快な音楽や、ディメンターの登場を告げる不気味なコーラスは、各シーンの雰囲気を効果的に盛り上げる。主題歌は存在せず、原作小説をモチーフにしたオリジナル楽曲で構成。主要な楽曲の一つに、ホグワーツ合唱団が歌う「Double Trouble」がある。この曲はシェイクスピアの『マクベス』の魔女の台詞を引用したもので、映画の不穏なテーマを暗示する。

作品 Harry Potter and the Prisoner of Azkaban
監督 アルフォンソ・キュアロン 125×0.715 89.4
主演 ダニエル・ラドクリフB8×3
助演 エマ・ワトソン B8
脚本・ストーリー 原作
J・K・ローリング
脚本
スティーブ・クローブス A9×7
撮影・映像 マイケル・セレシン
S10
美術・衣装 美術
スチュアート・クレイグ
衣装
ジェイニー・ティーマイム S10
音楽 ジョン・ウィリアムズ S10

honey
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