「米軍への抗議を込めた泥臭い真面目家族奮闘映画」グエムル 漢江の怪物 jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
米軍への抗議を込めた泥臭い真面目家族奮闘映画
冒頭に人間が自然を汚す描写を入れ、
怒れる自然の隠喩としての怪物vs人間の構図にし、
怪物は小出しにし、
まずは愚かな犠牲者を描き、
軍や消防隊の英雄的な活躍を描き、
ヒーローまたはヒロインがボロボロになりながらも怪物を倒し、
あーよかったと思ったら2匹目がいるのを匂わせて終わる、
というのが一般的なモンスターパニック映画の使い古された構図ですが、ポン・ジュノ監督の本作はそのような常套手段を取りません。
モンスターは定石を破り昼日中に衆人環視の中姿を現します。その造形はエイリアンのようでもあり、爬虫類のようでもありますがそれほど不気味でもありません。捕らえた人間を巣に運びますがその目的も分かりません。消化された人間と食われない人間がいますがその選別もよく分かりません。つまりモンスターの描写や生理生態などの設定は手を抜いているように見えてしまいます。
政府や軍の対応もよく分かりません。根本原因であるモンスターを駆除するために行動せず、ただ付随するウイルスの防疫を行っています。モンスターと戦うのは主人公家族だけで、政府も軍も米軍もただの障害物でしかありません。
頭は弱いが愛情深い父親、女子中学生の娘、働き者の祖父、そこに大卒の叔父と有名アーチェリー選手の叔母が加わりモンスターと対峙します。普段は半目し合っている家族が、困難に直面したことで団結し、政府や軍の障害を乗り越え、あくまで泥臭くモンスターを倒すまでが描かれます。「米軍への抗議」という体裁を冒頭に持ってきたため、ただの真面目奮闘家族映画になってしまいました。遊び心あふれる映画的想像力は乏しく、泥臭いリアリティ演出に終始します。
祖父の犠牲にも、頭は弱いが愛情深い父親の奮闘ぶりにも、感動できません。父親のキャラに比べ叔父や叔母はキャラが薄く、活躍場面も最後だけ。もっとも感動するはずの娘の犠牲もなぜかぼやかされてしまい、盛り上がりません。結局「ソン・ガンホがまた頑張ってるなー」以外の感想が沸かない映画でした。本作は漢江を汚して責任を取らなかった米軍(※)への抗議を目的とした政治的映画であり、家族の死と再生を描くための家族映画です。
(※)2002年にソウル市内の龍山米軍基地に所属する米兵が霊安室で使う劇薬ホルムアルデヒドを漢江に垂れ流していたことが発覚し、起訴された。米国側は、被告の身柄引き渡しに応じず、被告は罰せられることはなかった。