グエムル 漢江の怪物 : インタビュー
ポン・ジュノ監督インタビュー
――家族に焦点を当てるために、国家権力の営みが極力省かれていましたが、「リアリティがなくなるのでは」と思いませんでしたか?
「確かにちょっと心配になりました。シナリオを皆に読んでもらったときに、『警察は何してるの?』とか、『軍隊はどこにいってしまったの?』と言われたので。ですが、警察や軍隊の人間に重要な役を与えてしまうと、そちらの方に物語の核心が移ってしまうと思ったのです。それよりは、外の出来事は外の出来事で切り離して、家族の方に集中しようと決めたんです。M・ナイト・シャマラン監督の『サイン』でも、宇宙人襲来などについて話しているのは、すべてTVニュースだけで、基本的にメル・ギブソンの家族だけを追っていくストーリーでした。外で起きていることはあくまでもバックグランド的な感じで描き、家族に集中するということをひとつの特徴として打ち出したかったので。ただ、外で起きていることも、描かなくてはいけなかったので、最小限ですがところどころ入れておきました」
――この映画での、国の無関心ぶりは現在の韓国という国を象徴させているのですか?
「今回は私が社会学的な立場で韓国を分析して、この映画で表現したというよりも、私が今まで育ってきた中で、『韓国という国はどんな国なんだろう?』という疑問、問いかけを出しています。私は国家や国家が作り出すシステムに対して、いつも疑問や不満をもっているんです。というのも、彼らの作ったシステムで国民は幸せになったとは思えませんから」
――グエムルに対して火炎瓶で戦うところが左翼的だと思いました。
「私にとって、火炎瓶というものは政治的な凶器ではなくて、むしろアートなんですよね。火炎瓶が投げられたときに描かれる放物線が美しいと思うのです(笑)。政治意識が強い人にとっては、子供じみていると思うかもしれませんけど。私個人としては、『世界初の火炎瓶アクション映画!』と銘打ってもいいかもしれません(笑)」
――グエムルとは何を象徴しているのでしょうか?
「私はひとつのジャンル映画として製作を始めるのですが、最終的には、ジャンル映画をはみ出した作品を完成させてしまうのです。『殺人の追憶』の場合は、スリラーで始まりましたが、最終的には韓国農村部を描いた民俗学的な側面を持つ作品になりました。今回の場合も怪獣映画ということで始まりましたが、見終わると異なる印象を受けると思います。私が今回描きたかったのは、グエムルという怪獣そのものではなく、グエムルという怪獣が登場したことがきっかけとなって起こる、人々の反応だったのです。だから、グエムルが特定の何かを象徴しているということではないんです。カンヌで取材を受けたメディアの中に、あのアルジャジーラがあったのですが、彼らは『あの怪物はアメリカを象徴しているのですよね?』とこちらの意見を無視して、しつこく意見を押しつけていました(笑)。そういえば、カンヌでは、どこかのジャーナリストが、『これは今村昌平が撮った怪獣映画みたいだ』と言ってくれて、とても嬉しかったんですよ。私にとっては最高の褒め言葉ですね」
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