ゴッド・ディーバ : インタビュー
Part2:エンキ・ビラル、「ブレードランナー」を語る
繰り返しになるが、SF映画ファンにとっては、ビラルといえばあの近未来SF映画の金字塔「ブレードランナー」の元ネタとなった近未来像をコミックで描いた人物であり、「ゴッド・ディーバ」はついに“本家”ビラルが近未来世界を描いた作品。宙に浮かぶ巨大な広告モニター、古びた石作りの建造物など、こちらが原型で「ブレードランナー」はその80年代的アレンジだったのだと感じさせる場面は少なくない。だが、本家の余裕だろう、ビラル自身はそれを気にしていない。
「『ブレードランナー』はすごく美しい作品だと思ったよ。でも、あれは僕の作品だけじゃなくて、70年代のフランスやベルギーのコミックや、英国や欧州のさまざまな作品からも影響を受けてると思う。リドリー・スコット監督は、初めてコミックを映画に接近させた人物なんだ。『ブレードランナー』がパリで公開されたとき、来仏したリドリー・スコット監督が僕に会いたいと言ってきて、ホテルで会ったんだけど、彼は“自分の映画はフランスのいろんなコミック作家の作品に刺激を受けたものだ”って言ってたよ」
ビラル自身は気にしていなくても、何も知らない観客は逆に「ゴッド・ディーバ」が「ブレードランナー」や「フィフス・エレメント」に似てると思ってしまうかもしれない。
「そういう不安はないわけじゃないけど、そう思われてもいいと思うよ。ストーリーはその2作とは違うし、ビジュアルを比較しても違うのがわかると思う。ただ、SF映画でもミステリー小説でも、あるジャンルに属するためには、満たさなくちゃならないコード(公式、法則)がある。それをはずすとミステリー映画じゃなくなってしまう、みたいなね。でも、そのコードを守ったうえで、さらにそこに何を加えるかで、その作家の個性が出るんだと思うんだ」
すると、本作でニコポルが墜落するシーンが、「ブレードランナー」でデッカードが墜落するシーンとそっくりの構図なのは、意図的なものではない?
「え? 『ブレードランナー』にそんなシーンあったっけ? 全然、憶えてないな。憶えてたら同じようなシーンは撮らなかったと思うよ。ただ、テリー・ギリアムやキューブリックに対するちょっとした目配せはやってるけどね。例えば、ターナー博士の研究室に肌を移植しにやってくる女性患者の顔の造形は、テリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』に出てくるキャラクターの顔の造形を踏まえたものなんだ」
ところで余談ながら、ビラル・ファンにはちょっと「あちゃー」なご報告がある。ビジュアルの魔術師ビラルは、音楽の趣味はイマイチかもしれない。本作の挿入歌は少々映像の雰囲気に合わないような印象を与える場面もあるが、本作で使われた曲のほとんどは、ビラル自身の選曲によるものだそうだ。