フリーダ : インタビュー
激動の人生を送った伝説の女流画家フリーダ・カーロを、文字通り身も心も捧げて演じきったサルマ・ハエック。フリーダへの思いの深さゆえか、撮影現場での彼女の立ち居振る舞いはフリーダそのもの。周りの目を気にすることなく、自分の信念を貫き通す。そんな素顔のサルマ・ハエックに、町山智浩氏が迫った。
サルマ・ハエック インタビュー
「フリーダは、人生を思いきり生きただけなの!」
町山智浩
「このスケベ親父!」
あのサルマ・ハエックに怒鳴りつけられてしまった。それも世界中から集まったジャーナリストたちの前で。
ここはメキシコ・シティのチュルブスコ・スタジオ。「映画の父」エイゼンシュタンやルイス・ブニュエルも活躍した歴史的な撮影所だ。そこで「フリーダ」撮影中のサルマ・ハエックを訪ねたのだ。
「本物のサルマは小さいんでビックリするよ」撮影所まで行く途中、タクシーの運転手はメキシコが誇る世界的女優についてそう言った。
フリーダの自宅のセットで、サルマは手紙を書く場面を演じていた。監督のジュリー・テイモアがOKを出しても、自分の演技に納得いかないサルマは撮り直しを要求する。
「この映画はサルマのベイビーだから」テイモアは笑った。サルマはこの映画を企画し、何年もかけて資金を調達したプロデューサーであり、スタッフもキャストも彼女自身が直接交渉して集めた。ところがその過程でジェニファー・ロペスもフリーダの生涯を演じたいと言い出した。ハリウッドを代表するラテン系女優がフリーダを競作か? マスコミは面白がって騒ぎたて、サルマは「フリーダはメキシコ人だけど、ジェニファーはプエルトリカンで、スペイン語もしゃべれないじゃない」とライバルを攻撃。いっぽうジェニファーは巨匠フランシス・コッポラをプロデューサーにして企画を進めたが、サルマはフリーダの遺族を口説き落として彼女の絵を独占的に使用する許可を獲得。絵が使えなくなったジェニロペ版フリーダは潰れた。サルマの情熱の勝利だった。
昼休み、スタジオの中庭でメキシコ風ランチを食べながらインタビュー。サルマは現れるなりさっきのシーンで妥協しなかった理由を語った。
「手紙を書くシーンはとっても重要なの。フリーダはものすごく手紙が好きで、それがフリーダ研究の対象になってるの。とにかく辛らつで皮肉に言いたいことをズバズバ書いてるから。ものすごくおかしい手紙なのよ」
話しながらサルマはスパスパ煙草をふかす。
「タバコ? これは役作り。フリーダが吸うから。あと、この長い耳たぶは特殊メイクだから触らないでね。つながり眉毛は本物だけど(笑)」
この時は眉毛と並んでフリーダのトレードマークである口ヒゲは生やしていなかった。
「若い頃の場面だから。年を取るに従って濃くするわ。でも、フリーダの絵の口ヒゲは誇張されてるの。あれは彼女の願望だと思うわ。たとえば彼女は左足が不自由だと日記に書いてるし、絵でもそう描いているけど、実際に障害があったのは右足なの。きっと、本当は傷ついている右足を健康だと思い込むことで“痛み”を克服しようとしたのよ」