劇場公開日 2003年7月12日

エデンより彼方に : 映画評論・批評

2003年7月1日更新

2003年7月12日よりシネマライズほかにてロードショー

ただすさまじい知力と労力に感嘆するのみ

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「エデンより彼方に」は近年もっとも高価な実験映画かもしれない。そうとでも思わなければこの映画に費やされた多大な労力を合理化できまい。

単純に見れば、これはただのメロドラマである。舞台は50年代、アメリカの田舎町。主人公である中年主婦は地域社会の重鎮であるエリートの夫と可愛く素直な子供に恵まれ、何不自由ない暮らしを送っている。だが、ある日すべてが暗転する。夫が隠していた暗い秘密が明るみに出て、妻は夫の愛を失う。唯一の慰めは黒人庭師との交情だが、偏狭な白人社会はそれさえも断罪せずにいられない。

平凡な主婦にあらゆる不幸がふりかかる、というプロットはダグラス・サークの55年作品「天はすべてを許し給う」のリメイクである。だが、監督のトッド・ヘインズはただリメイクするだけでは飽き足りなかった。画面の色調をCG処理までして50年代のテクニカラーに合わせ、衣装(主演のジュリアン・ムーアは尖った“ハリウッド・ブラ”をつける)も音楽も50年代風を見事に再現する。演技さえもが――抑えた演技を得意とするムーアさえ――かつてのハリウッド風の大仰なものだ。ヘインズは完璧に50年代映画を再現してみせた。だがいったい何故? それに答えられる人はいない。ただ注ぎこまれたすさまじい知力と労力に感嘆するのみだ。

柳下毅一郎

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