デアデビル : 特集
「デアデビル」には、アメコミ・ファンならニヤリの関係者が3人もカメオ出演している。まずは、アメコミ・オタクの登場する映画を撮り続ける「ジェイ&サイレント・ボブ/帝国への逆襲」のケビン・スミス監督。それから、「スパイダーマン」「X-メン」「ハルク」などを書いたアメコミの父、スタン・リー。そしてもうひとりが、フランク・ミラー。彼は「デアデビル」のアーティスト兼ライターとして人気を集め、その後、「バットマン:ダークナイト・リターンズ」を発表、アメコミ界に革命を起こした人物。現在のアメコミ・ヒーロー映画はみな、彼の作品の影響を受けて生まれたのだ。しかもクリストファー・ノーランの新「バットマン」は、ミラーの名作をベースにするとのウワサも? なお、今回は特別にプレゼントをご用意。もらって嬉しいキューブリックほか、オリジナルグッズを25名様にプレゼント! 詳細は特集の最後をご覧ください。
アメコミ映画を観るなら、フランク・ミラーをマークすべし!
パート1:フランク・ミラーのコミック
編集部
昨年の「スパイダーマン」が大ヒット、「デアデビル」もヒットして、現在、ハリウッドではアメコミ映画化企画が目白押し。そこでハリウッド映画界でのアメコミ・ヒーロー映画の歴史をちょいと振り返ると、それまではノー天気な冒険活劇だったこのジャンルが、ティム・バートン監督の「バットマン」(89)以降、ガラリとテイストを変えたことに気づくはず。内部に屈折を抱く変人のヒーローという設定は、それまでのヒーロー映画にはなかったもの。この映画が熱狂的に受け入れられて、その後のアメコミ・ヒーロー映画の主人公は、屈折のひとつやふたつ持っているのがお約束になった感があるが、それもこれもフランク・ミラーがストーリーを書いたコミック「バットマン:ダークナイト・リターンズ」のせい。ティム・バートン版「バットマン」はこのコミックに影響を受けて作られたのだ。
その「ダークナイト・リターンズ」が発表されたのは86年。主人公は、10年前に引退して今は55歳になったバットマン。しかし、彼は長年抑えてきた衝動につき動かされ、再び戦うことを始めてしまう。世論は彼を犯罪者だと糾弾し、心理学者は彼を社会病だと断じる、「混乱した怒れる若い世代は、バットマンの自己破壊の病理に合わせて自分を曲げてしまう」と。彼の戦いには本当はどんな意味があるのか、55歳のブルース・ウェインは自問する。彼同様に老いたジョーカーやトゥーフェイスが、それぞれの理由で彼に戦いを挑んでくる。同い年のスーパーマンは政府の配下に下っている。キャットウーマンを引退したセリーナ・カイルは、アルコールに溺れて肥満し、高級エスコートサービスを経営している。バットマンに心酔する若者たちは“バットマンの息子”と名乗るストリート・ギャング団を結成し、犯罪を犯していく。米「ローリング・ストーン」誌に「フランク・ミラーによって、バットマンはコミック・アイコンを超えた存在になった。彼はアメリカの崩壊の象徴であり、アメリカの理想の象徴になったのだ」と評された作品だ。
この作品を作った理由をミラー自身はこう語っている。「僕は6歳のときに初めて『バットマン』を読んだ。実際の子供時代よりも、あの時読んだ『バットマン』のほうを鮮明に覚えてるんだ。こういう職業を選ぶヤツはみんなそうなんだけどね(笑)。夜明けの街、コウモリの格好をした男。一瞬、息が止まったよ。『ダークナイト・リターンズ』を書くときに考えたのは、いったいどんな男があんな格好をするのかってことだ。僕が書く話が暗くて歪んだものになるのは、ああいう格好をする男が、なにか偏執的なもの、屈折したものを抱えていないはずがないからだ」。彼は「もしあなたが書いたバットマンみたいな人物がいたら、現実世界にも影響を与えるだろうか?」と問われて「いや、そうは思わない。すぐ殺されるだろうね」と答えてもいる。
そんな世界観を持つフランク・ミラーが書いた屈折したヒーロー、悩めるヒーローは、ファンに喝采で迎えられ、その後のアメコミ界を変貌させた。大人の鑑賞に耐える作品が次々に生み出されるようになったのだ。そしてティム・バートンの「バットマン」が登場。アメコミ・ヒーロー映画もまた変貌していく。