ダンサー・イン・ザ・ダーク : 映画評論・批評
2000年12月15日更新
2021年12月10日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
ビョークの“魂の叫び”を聞け
「感動の嵐」とか「魂を揺さぶる」とか、手垢のついた常套句は使いたくないのだが、この映画の場合、それは無理だ。だって、これは正真正銘、ビョークの「魂の叫び」なんだもの。フォン・トリアーはついにカンヌの大賞を獲得。ビョークも主演女優賞に輝いた。
彼女が演じるのは不治の病で視力を失っていくセルマ。ミュージカルが大好きで、 働いている工場も、通りすがりの列車も、華麗なステージと空想すれば辛い日常を忘れてしまう。だが、現実は過酷な試練ばかり。犯罪者として裁かれる法廷ですらセルマはミュージカルの舞台に見立てる。そして、最後のステージは……。
とてつもない異端のミュージカル。だが、本質を突いている。現実が楽しく幸せなことばかりだったら、誰が映画やミュージカルを見るだろう。トリアーは子供の頃、ジーン・ケリーの「雨に唄えば」などが大好きだったという。ドグマの提唱者がミュージカルをデジカメ100台で撮る──先鋭性は予測できたが、こんな古典性に裏打ちされていたとは!
前々作「奇跡の海」のヒロイン同様、セルマも愛する者のために身を犠牲にする。前作「イディオッツ」も含めて、無垢が排除されるこの世の悲しみを、トリアーは誰にも真似のできない方法で歌い上げているのだ。
(田畑裕美)