ロスト・バス : 映画評論・批評
2025年10月7日更新
2025年10月3日より配信
ヒーローは普通の人たちだった。米史上最大級の山火事災害を完全映像化
「ユナイテッド93」(アメリカ同時多発テロ事件)や「7月22日」(ノルウェー連続テロ事件)など、実際の事件をドキュメンタリー的な手法で再構築することで知られる映像作家ポール・グリーングラス。その新作は2018年に発生した山火事を映像化したサバイバル・アクションだ。主演はマシュー・マコノヒーとアメリカ・フェレーラ。また、マシューの母親と息子が出演しているのも話題だ。製作に女優のジェイミー・リー・カーティスとジェイソン・ブラムがクレジットされている。
スクールバス運転手のケビン・マッケイ(マシュー・マコノヒー)は、反抗期の息子ショーン(リーヴァイ・マコノヒー)と老母シェリー(ケイ・マコノヒー)を抱え、多忙な日々を過ごしていた。11月の乾燥した日に発生した山火事は、折からの強風に煽られ急拡大する。街を飲み込む猛烈な炎の中、ケビンはバスに乗る22人の子供たちと、献身的な教師メアリー・ルドウィグ(アメリカ・フェレーラ)と共に、燃え盛り煙が渦巻く道を走り出す…。

画像・映像提供 Apple
カリフォルニア州のパラダイスという街で起きたこの山火事は「キャンプ・ファイア」と名付けられ、鎮火までに17日を要し85人が死亡、約5万人の住民が避難し一帯の建物の約95%・1万3500棟が焼失した。これは米国内の過去100年で最大の死者を出した山火事であり、カリフォルニア州史上で最悪の災害となった。この出来事を描いた書籍を読んだカーティスがブラムに電話をかけ、映画化を持ちかけた。彼女は監督としてグリーングラスを希望していることも併せて伝えた。
主演のマコノヒーとフェレーラはモデルとなったマッケイとルドウィグに会い、演技の質を高める努力をした。息子のリーヴァイは撮影班の一員として参加が決まっていたが、脚本を読んでショーン役を熱望した。4度にわたって父を説得し、根負けしたマコノヒーはオーディションの参加を認め、リーヴァイは自力でデビュー作をもぎ取った。
凄まじい迫力の火災シーンは、煙によって暗くなった当日の空を再現するため、日没直前のマジックアワー(約45分間)を利用して撮影された。炎や倒れ込む電柱、車列を避けて走るバスの外観シーンを撮った翌日は、ジンバルに乗ったバスのセットを囲むようにLEDスクリーンを設置。前日の火災フッテージを車窓に映すことで、車内の子供たちはよりリアルな演技に集中することが出来た。
ジャーナリスト出身のドキュメンタリストである監督は、閉鎖空間でのドラマを再現するため、名作「駅馬車(1939)」や「恐怖の報酬(1952)」、自作の「キャプテン・フィリップス」などを参考にした。また、被災した街が富裕層ではなく一般市民の居住地区であり、命を救うのが弱者とも言えるブルーカラーのシングルファーザーであることにフォーカスする。前述「ユナイテッド93」「7月22日」のように、ヒーローが市井の人々だということを際立たせ、観客がより感情移入できる物語に仕上げているのだ。
なお、パラダイスの人口は2万5000人から災害の影響で5000人に減少し、今も復興は果たせていないという。
(本田敬)