黒川の女たち

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劇場公開日:2025年7月12日

解説・あらすじ

戦時下の満州で黒川開拓団の女性たちに起きた「接待」という名の性暴力の実態に迫ったドキュメンタリー。

1930~40年代に日本政府の国策のもと実施された満蒙開拓により、日本各地から中国・満州の地に渡った満蒙開拓団。日本の敗戦が濃厚になるなか、1945年8月にソ連軍が満州に侵攻し、開拓団の人々は過酷な状況に追い込まれた。岐阜県から渡った黒川開拓団の人々は生きて日本に帰るため、数えで18歳以上の15人の女性を性の相手として差し出すことで、敵であるソ連軍に助けを求めた。帰国後、女性たちを待ち受けていたのは差別と偏見の目だった。心身ともに傷を負った彼女たちの声はかき消され、この事実は長年にわたり伏せられることになる。しかし戦争から約70年が経った2013年、黒川の女性たちは手を携え、幾重にも重なる加害の事実を公の場で語りはじめた。

そんな女性たちのオーラルストーリーを、「ハマのドン」の松原文枝監督が丁寧に紡ぎ出す。俳優の大竹しのぶが語りを担当。

2025年製作/99分/G/日本
配給:太秦
劇場公開日:2025年7月12日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

監督
松原文枝
プロデューサー
江口英明
撮影
神谷潤
金森之雅
編集
東樹大介
語り
大竹しのぶ
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映画レビュー

3.5 戦争はいつでも男の顔をしている

2025年7月26日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

黒川開拓団のことは以前から知っていたが、当事者の方々の実際の声を聞いたことがなかったので、とても興味深かった。

戦争だから
生きるためだから
みんなを守るためだから

様々な大義名分を無理やり突きつけて、半ば強制的に犠牲にさせた乙女たち。
戦争が無ければ、青春を謳歌し、人によっては素敵な恋をして、様々な選択肢ある未来を歩めた乙女たち。
本来ならば、守ってあげなければならない立場の乙女たちに、戦争を起こさせた大人たちが、さらに地獄を味合わせた現実に反吐が出る。

そしてそれを恥ずかしいことだと隠し、そのせいで周りに歪んだ認知を引き起こし、差別や偏見を招く状況にさせたこと、彼女たちが立ち上がるまで何もしなかったことにも反吐が出る。

この事実を無かったことにしないように尽力した人々には頭が下がるし、これを記録として映像に残したことは素晴らしいことだと思った。

ただドキュメンタリー映画という視点で見ると、もう少し構成や編集はブラッシュアップできたのでは無いかと思う。
当時の様子をわかりやすいイメージ図に起こすとか、加害者の男性側のインタビューを複数入れたりだとか、もう少し作り込みや工夫が欲しかった。

なので、点数をつけるのが難しく、ドキュメンタリー映画としての観点と、映画のテーマ性やこの作品の目的の間を取り、ちょっと厳しめにつけました。すみません。

劇中でもある男性が言っていたように、なぜこんなことが起こってしまったのかを考え続けることが、今の私たちには必要だと思う。この作品はそのきっかけを与えてくれるような作品だった。

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AZU

3.0 世間の風当たりの情けなさ

2025年10月20日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:その他

〈映画のことば〉
「生きていてくれて、ありがとう。」

もちろん、賛否の両論はあるだろうと思います。
しかし、結果としては生きて故国の土を踏む日を再び迎えることができたことは、黒川開拓団の「この決断」にあったことは、否定しがたいこととも、評論子は思います。

令和の今ならともかく、軍人だけでなく、国民の一人ひとりまで「生きて虜囚の辱(はずかし)めを受けず」と教えられていたはずです。

現に当時の満州でも他の開拓団は集団自決自決を選んだとのことですし(中国とは別の戦いだった)沖縄戦でも、多数の現地民が、しかもアメリカ兵の目の前で、崖から海に身を投げたりして、自決という選択をしているという、その世相の中で。

仲間の命をつなぐために、黒川開拓団で「この決断」ができたことは、評論子には、奇跡的にも思われます。

そのことは、本作での「接待」に実際に従事したという女性にかけた、彼女の娘さん(お孫さん?)による、上記の映画のことばにも、如実に表れているというべきでしょう。
極限的な状況にあってもらともかくも「命を繋ぐ」という選択ができたことは、十二分に「英断」としての評価に値すると、評論子は考えます。

むしろ、評論子が気になったのは、やっとの思いで帰国した彼女らに、世間の風当たりは、決して優しくはなかったとのことでした。

脳科学者の茂木健一郎は、「挑戦できる人と、できない人の違いは?」と題して、こんな一文をものしています。[「ピンチに勝てる脳」2013年、集英社刊・集英社新書)]

「日本には、自分が日本の代表となっての中で戦おうとする人があまりに少ないのが現状です。そして、もっと悪いことには、海外で戦おうとする人の足を引っ張る日本人も少なくありません。僕が最初にアメリカに行ったときも、「日本人がアメリカに行っても通用するわけがない」といったような非難をさんざん浴びました。どういうわけか、日本人というのは、自分たちの仲間が挑戦しに行こうとするとき、必ず足を引っ張ろうとするようです。そして、失敗して帰ってきた人に対しては「それみたことか」という意地の悪い気持ちもあるかもしれません。」

「僕は今、英語のブログを毎日書いているのですが、そのブログに対してのコメントの仕方が日本人と外国人では、かなり違います。日本語で英語へのコメントを書いてくる人の中には、アメリカやイギリスに住んでいる日本人や、もしくは昔、海外に住んでいた経験のある人がいます。その中には、時折なんとも奇妙な人たちがいます。単語のスペルが間違っているとか、文法的にそういう表現はないとか、要するに、茶化すような内容か、人を貶(おとし)めることを目的として書かれたものがあるのです。ところが、外国の人が、僕の英語のブログにコメントをくれるときは、僕が書いたブログの内容の実質的なことにしか触れてきません。僕の英語のブログに対するコメントを見ていると、挑戦できる人と、できない人との違いが見えてくる気がします。」

本作での黒川開拓団の決断は、ある意味、団員の命を賭した「挑戦」でもあったのだと、評論子は思います。

その「団員たちの命を賭した挑戦」を経て、命からがら故国に帰った「接待」の女性団員に、心ない批判を浴びせかけたという当時の(令和の今も?)の「世間」という日本人たちの「足の引っ張り合い」には、失望を通り越して、情けなさを感じざるを、評論子は得ません。

作中に説明的なセリフがない(あるいは極端に少ない)ためか、あまりドキュメンタリー作品の鑑賞が得手ではなかった評論子にも、本作は、ズンと胸に迫る一本にもなりました。

そのことでも、本作は評論子の「ドキュメンタリー苦手意識」を、グッと軽くしてくれたようにも思います。

充分に佳作としての評価に値するものと、評論子には思われました。

(前記のとおり、黒川開拓団のこの「決断」には、賛否の両論があろうかと考えます。
評論子のこのレビューも、そういう多様な価値判断を否定するものではなく、レビュアーの皆さまにも、あくまでも評論子が本作を鑑賞しての一本のレビューとして受け止めていただけると、幸いです。)

(追記)
それにしても。

愛娘たちを「接待」に送り出すと決めた時の、彼女たちの親子さんの心情は、いかばかりなものだったでしょうか。
彼女らに勝るとも劣らない艱難辛苦だったことでしょう。

「戦争の不条理」というものは、こんなところにまで顔を出すものなのかと思うと、本当に胸が痛みます。

そのことを声高に訴えてはいないとしても、本作も立派な「反戦映画」だったという受
け止めをしたのは、独り評論子だけではなかったこととも思います。

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talkie

4.5 【感涙】地元ミニシアターで上映される機会が来るのを待っていました。

2025年9月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

驚く

・7月のテレビ朝日の報道ステーションで「ドキュメンタリー映画「黒川の女たち」が間もなく上映されます」というニュースが流れてから、地元ミニシアターで上映される機会が来るのを待っておりました(東京都内等の映画館まで出かけるフットワークがないため)。
・満州開拓団をはじめとした「民間人」は、ソ連国境沿いに置いてけぼりにされ、関東軍はさっさと撤退し、日ソ中立条約が破棄された後、ソ連が攻め込んできた事は、「映画ラーゲリより愛をこめて」を観るまでもなく、歴史的史実として承知しておりましたが、18才ぐらいの若い女性が「黒川開拓団」をソ連軍や満州の現地民から守るための犠牲となり、ソ連軍の性暴力に服する事実は唖然とするしかありません。映画館内の女性観客がすすり泣きをしていました。
・「なかったことにはできない」。この心の叫びは、現在90歳過ぎの女性たちが「今語っておかなければ、歴史の中に埋もれてしまう」という危機意識から、顔を出してまで映像の中に登場して告白するという行為につながったのでしょう。
・現在は「男女共同参画社会の構築」、「女性の自立」という言葉が当然のように語られますが、戦争当時は男尊女卑の社会であり、女性は男性に仕えるという社会風潮だったと思います。現代がいかに恵まれているかという事がよくわかりました。
・この映画が上映されているのは主に「ミニシアター」。黒川の女たちの事実はもっと広く世間に知られるべき事ですが、シネコンでの上映はイオンシネマなどの一部にすぎません。そのことは残念に思います。
・この映画が作成された事、黒川の地元に乙女の碑(プレート)ができたので、後世に史実が残されたのは良かったと思います。
・この映画を鑑賞できたことに感謝いたします。

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天空住人

5.0 黒川の女たち

2025年9月7日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

終盤に登場した男性が、「あんたの母親が、そうだったら、あんた嬉しか?」的な事を言っていた。
完全に男目線の言葉が心に沁みた。
このドキュメンタリーを観ていなければ、自分もこんなだったのではないか。
そこに気付いたのは、この作品のおかげでした。
女性達が供物にされ、助けた男達に蔑まれた人生。
長かったでしょう。
敬意しかありません。
右傾化する世界、そして日本。
今だから、観るべき作品です。
これを授業に取り上げた教師の言葉。
「これを教えないと、知らないままになってしまう。」、敬意を表します。
そして、父親が行った行為に真正面から向き合った、遺族会の会長。
その勇気にも、心から頭が下がりました。
これを製作した、
TVアサヒ、ありがとうございます。
NHK、何してんの。

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映画館難民