アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓

劇場公開日:2025年6月13日

アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓

解説・あらすじ

ソ連統治下のアルメニアを舞台に、無実の罪で収監されたアメリカ人男性が、牢獄の小窓から見える部屋に暮らす夫婦を観察することに幸せを見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。

幼い頃にオスマン帝国でのアルメニア人迫害から逃れアメリカに移住したチャーリーは、1948年、自身のルーツを知るため祖国アルメニアを訪れる。そこはソ連統治下にあっても理想の故郷のように思えたが、チャーリーは身に覚えのないスパイ容疑で逮捕・収監されてしまう。悲嘆に暮れるなか、牢獄の小窓から近くのアパートの部屋が見えることに気づいた彼は、そこに暮らす夫婦の生活を観察しはじめる。チャーリーは想像力を研ぎ澄ませ、まるで夫婦と同じ空間にいるかのように彼らと一緒に食事をし、歌を歌い、会話を楽しむようになる。しかし夫婦仲がこじれて部屋には夫だけが残され、時を同じくしてチャーリーのシベリア行きも決まってしまう。移送の日が迫るなか、チャーリーは夫婦を仲直りさせる作戦に乗り出す。

アルメニア系アメリカ人のマイケル・グールジャンが監督・脚本・主演を務めた。ウッドストック映画祭長編映画賞・審査員賞など、世界各地の映画祭で数々の賞を受賞。

2022年製作/121分/G/アルメニア・アメリカ合作
原題または英題:Amerikatsi
配給:彩プロ
劇場公開日:2025年6月13日

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(C)2023 PEOPLE OF AR PRODUCTIONS and THE NEW ARMENIAN LLC All Rights Reserved.

映画レビュー

4.0 この映画は時に言葉を超越して愛と尊厳を伝える

2025年6月24日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

タイトルの語感から生じる可愛らしくコミカルな響きと、それとは真逆の悲痛なまでの歴史の重みや爪痕を併せ持つ稀有な作品だ。それゆえこの映画の笑いには涙がにじむ。言うなれば『ライフ・イズ・ビューティフル』的な喜劇の感動とでも言うべきか。自らのルーツを求めてアルメニアに舞い戻った主人公を待ち構える運命はあまりに不運で、過酷だ。しかし彼が独房の鉄格子ごしに誰かの暮らしを覗き見るとき、広い窓はワイドスクリーンとなり、見ず知らずの男はサイレント映画の花形スターとなる。この思いがけなく生じる唯一無二の劇場的状況が実に見事。絶望のふちで咲くイマジネーションが胸を揺さぶってやまない。そしていつしか互いを鏡面的に意識し合うようになってからは、彼らがまるで引き裂かれた分身のようにも思えてくる。それは主演、監督、脚本を務めたグールジャンが、祖父を始め故郷の人々を追想し、心を重ねようとする姿そのものなのかもしれない。

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牛津厚信

4.0 【”アルメニア人のアララト山の絆。そして怒りに呑まれるな!”今作は無実の罪でソ連の獄に入れられた男が格子から見えたアルメニア人元画家で現看守と交流し、自由を勝ち取る様を描いたヒューマンドラマである。】

2025年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■1915年。オスマン帝国によるアルメニアジェノサイドで祖母を失った幼きチャーリー。祖母は銃殺される前に”笑顔を忘れないで。”と彼に言葉を遺す。その後、幾星霜。
 ソ連統治下の祖国・アルメニアに帰還したチャーリー(マイケル・グールジャン)は、刑務所長ジャン(ジャン=ピエール・ンシャニアン)とその妻ソナ(ネリ・ウヴァロワ)の息子を事故から防ぐが、ジャンによりスパイ容疑で逮捕されてしまう。
 だが、めげずにチャーリーは牢獄の小窓から隣のアパートに住む夫婦を観察するのが日課となる。彼らが生活する姿を見て楽しんでいたが、或る日夫婦は喧嘩別れをしてしまう。チャーリーは男が刑務所の監視役である事を洗濯物から知り、夫婦仲を戻そうと奮闘するのである。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・ストーリー構成、演出とも秀でた作品である。何よりも刑務所内のチャーリーを始めとしたアルメニア人囚人たちが、アルメニア文化を誇っているのが良いのである。

■ご存じの通り、アルメニア人は長年虐げられてきた人種である。今作の冒頭で描かれるオスマン帝国によるアルメニアジェノサイドなどである。
 故に、チャーリーの様に世界各国でアルメニア人は暮らしている。旧ソ連崩壊によりアルメニア共和国が出来てからもその状況には変わらない。今作の監督・脚本・主演のハリウッドのベテラン俳優であるマイケル・グールジャンもその一人である。
 だが、彼らはアルメニア文化を忘れない。今作はその思いに満ちた作品でもあるのである。

・アルメニア文化と言えば、アルメニアの民族の象徴とも言われるアララト山がその代表格であろう。ノアの箱舟が流れ着いたとされる山である。
 今作ではそのアララト山が重要なモチーフになっている。看守の男(後半に明らかになるが、高名な画家であったアルメニア人のティグラン(ホヴィク・ケウチケリアン)。彼は教会を描いた事で、画家を止めさせられ刑務所の看守になっており、画家の夢を断ち切れなったために妻と口論になっていたのである。)の家での宴会を見ていたチャーリーが自分もアルメニア人と伝える為にタバコと引き換えに描いて渡したアララト山や、ラストのシーンでも効果的に使われているのである。

■今作の演出で上手いのは、ティグラン夫婦の会話が字幕でも出ない所である。観る側は夫婦の会話や、仕草や室内の状況で夫婦関係の状況を推測するのであるが、これが良いのだな。

・今作では、チャーリーは無実の罪で獄に繋がれても決して諦めない。彼はティグラン夫婦の家を観るために独房を快適なカラクリに満ちた部屋に変え、ベッドを椅子にしてティグラン夫婦の家を眺めながら食事を摂るシーンなどとても良いのである。

・そして、彼の想いが通じてティグランは出て行ってしまった妻を迎える為に、酒も止め部屋も綺麗にするのである。そこに漸く戻って来た妻(ナリーヌ・グリゴリアン)。
 そして、ティグランはお礼にバターを差し入れしたりするのである。壁が有っても二人の友情は成り立ったのである。
ー このシーンで、チャーリーがティグラン家のパーティに参加している夢想シーンも良いのだな。-

・だが、或る日、チャーリーたちはシベリア送りを命じられる。だが、偶々刑務所に訪ねて来たソナは、チャーリーが獄の中にいる所を見てしまい、夫である刑務所長に激しく詰め寄るのである。
 そして、チャーリーは意地の悪い看守によりティグランにボンチク(ベルトで鞭うたれる事。)をされながらも刑務所から釈放されるのである。

・彼が自由の身になって行った場所は、長年観て来たティグラン夫婦が住んでいたアパートなのである。そして、そこの棚に挟まれていた布に見事に描かれていたのは、アララト山だったのである。
 そして、チャーリーは老いるまでその部屋で、楽しく仲間達と宴会などをして暮らすのである。

<今作は無実の罪でソ連の獄に入れられた男が格子から見えたアルメニア人看守と交流し、自由を勝ち取る様を描いたハートフルなヒューマンドラマなのである。>

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NOBU

4.0 どんな状態でも

2025年8月17日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

驚く

なにか楽しみを見つけて生きていける

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むーらん

未評価 アルメニアと北朝鮮

2025年8月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 第一次世界大戦時にトルコがアルメニア人を100万人単位で虐殺していたと言うとんでもない歴史的事実を知ったのは映画「消えた声が、その名を呼ぶ」(2015)を観た時でした。ナチによるユダヤ人虐殺と同様のホロコーストがあった事をジイサンになるまで知りもしなかったのです。学ぶべき歴史はまだまだ沢山。

 さて本作は、そのホロコーストを逃れてアメリカに移住していた男が、ソ連治世下で落ち着いた社会になったと思われた祖国に戻ったところ、いきなりスパイ容疑で逮捕され監獄に放り込まれるというお話です。しかし、物語は決して暗くはならず、監獄の窓から見える近所のアパートに暮らす夫婦を静かに励まし続けるという予想外の展開を見せます。男が置かれた状況は不条理で厳しいのに、夫婦を見守る眼差しは妙に可笑しく、心温まります。観る者は自分の心を一体どこに置けばよいのか戸惑ってしまうのでした。これは上手い造りだなぁ。

 ところが、更に引いた視線で見ると、彼の境遇が全く別の歴史的事項に重なって見えます。それが、「地上の楽園」の宣伝文句に夢を託した在日コリアンの人々が北朝鮮に帰った途端に厳しい現実に晒されたという「帰国事業」です。僕の身の回りでこの事業に加わった人は居ませんが、日本人としてはかなり身近な問題に感じます。それだけに、本作の舞台が北朝鮮であったなら「悲惨な現実をこんなにホッコリ物語に描いてしまっていいのかな」と感じていたのではないでしょうか。それは考え過ぎなのかな。

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La Strada