「愛の犠牲が悪を滅ぼす」ノスフェラトゥ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
愛の犠牲が悪を滅ぼす
『F・W・ムルナウ』の〔吸血鬼ノスフェラトゥ(1922年)〕のリメイク。
同作には『ヴェルナー・ヘルツォーク』による1979年のリメイク版があり、
自分はこれを「東京ドイツ文化センター」で1983年に観ている。
「ヴェルナー・ヘルツォーク回顧展」だが、
主演の『クラウス・キンスキー』のあまりのはまり役に加え、
ヒロインは撮影当時24歳の『イザベル・アジャーニ』。
息を飲むほどの美しさを観たい故だろう、
同イベントでは、他作品よりも真っ先にチケットが売り切れていた記憶。
直近の
やたら血しぶきが飛び散る{スプラッター}や
ありえない場所からモンスターや殺人鬼が出て来る
鬼面人を驚かす{ホラー}とは
かなり毛色の異なる{ゴシックホラー}。
原典のストーリーや雰囲気を忠実になぞることで、
懐かしくも恐ろしい気配に満ちた一本に仕上げている。
とりわけ影を使った演出が秀逸。
カーテンに「ノスフェラトゥ」の影は映っても、
風で翻った場所に実体はいない。
精神的にちりちりとした恐怖に
身が縮む感覚。
とは言え、そもそもの設定に新しさが無いことへの不満はある。
合理的な考え方で神秘を認めようとしない
『フリードリヒ(アーロン・テイラー=ジョンソン)』の存在くらいか。
〔ドラキュラ(1979年)〕での伯爵は、
陽が当たらない場所なら昼間でも平気で行動し、
信心を持たぬ者が持つ十字架など、
反対に燃やしてしまう強靭さが新機軸。
どうやって対峙するのだろうとの期待が
今までにないサスペンスを生んだ。
翻って本作での魔物は
オールドスタイルの「ノスフェラトゥ」。
退治の方法は分かり易い。
なので、カテゴリーらしい、
美醜やロマンスと怪奇をどのように盛り込むかがミソ。
チェコでロケされたと聞く、寒々しく陰鬱な景色。
1800年代半ばのドイツの街の猥雑な喧噪。
伯爵が住む、荘厳ではあるものの
廃墟のような城の佇まい。
モノクロに近い色味ながら
何れも美しい。
聖女の献身を見せる『エレン』。
最後は欲に溺れ、自分を見失ってしまう『オルロック伯爵』。
共に孤独な故に結び付いた関係性は
忌まわしくも悲しい。
とりわけ、後者で尊大さや孤高の中に、
寂寥を感じさせた『ビル・スカルスガルド』の演技は特筆もの。
前者の『リリー=ローズ・デップ』も
白眼を剥き、四肢を震わせ麻痺をする力演は遜色なし。
が、ヒロインの美しさの面では
どうしても先作の『イザベル・アジャーニ』と引き比べてしまう。
勿論、記憶が美化をしているかもだが。
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