「えっ、そっち??」ノスフェラトゥ しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
えっ、そっち??
1922年の「吸血鬼ノスフェラトゥ」は観たことがないが、ヴェルナー・ヘルツォーク監督、アジャーニの「ノスフェラトゥ」(日本公開は'85)は観ているが、いわゆるド真ん中のものはあまり関心がなかった。漫画「怪物くん」のクラシックモンスターは茶化されるキャラクター設定が当時ガキだったオレにとっては、恐怖の対象にはなりえなかった。
吸血鬼もの、というと、オレらの世代だと、なんだろう。コッポラの「ドラキュラ Bram Stoker's Dracula」('92)、クルーズの「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」('94)、「フライトナイト」、変わり種で「スペース・バンパイア」('85)といったあたりが思い出深いが、その象徴は共通して、「エロス」。
ノスフェラトゥ、の意味とは一説によると「不浄な者」、「病を含む」などあるらしいが、まあ、そういうことは映画を観れば、おおよそのことはその解釈でよいが、不浄に性的な意味をもたらせば、ふしだら、みだら、といったことになるだろうし、オレはそういうジャンルだと思ってみている。「エロス」がなければ、ゾンビもの。
だが、そのジャンルよりも本作を上半期最大期待作とさせるのは、あの「VVITCH」で鮮烈デビューを飾ったロバート・エガース。しかし、そのデビュー作から、ちょっとずつ、明らかに作品の評価が下がってきているのだが、本人、オリジナルに憧れ、長年の思いを込めたらしい。
「ノスフェラトゥ」
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エガースの前作「ノースマン 導かれし復讐者」(’23)は土着嗜好にこだわりの映像に評価はするが、話が全然面白くなく、豪華俳優陣も紙芝居的演技。期待した分、落胆も大きかった。で本作。
序盤のデップの祈りが「VVITCH」の続編か!と思わず膝を打った。ちゃんとエロスを感じさせるオープニングに喜んだのもつかの間。
前リメイク版(オレの場合、ヘルツォーク版)と大筋は変わらないのだが、シンプルな話をもったいぶった映像とコテコテCGでまぶしていく手法にうんざり。
禍々しさや妖しさが足りない一方で影絵な演出もあって、ギャグかと思った。
衣装に至っては、本当にその良さが暗さのせいで台無し。ゴシックホラーって全編真っ黒だったり、無意味に照明を使わない手法がそうだ、と言わんばかりの撮影にイライラ。ほんと、アカデミー賞ノミネートって信じないほうがいい。
一方の演者の方も、残念。
デップには荷が重い。顔芸と屈伸振動運動と広いオデコしか印象にない。やればやるほど、「エクソシスト」('73)のパロディか、と。オレと同じ世代の観客は「ノスフェラトゥ」が「エクソシスト」をパクったんじゃねえか、と思ってしまうから、要注意。っても「エクソシスト」もクラシックで、まあ、どっちがパクろうが、どっちでもええがな、ということなんだけど。(「エクソシスト」の「悪魔」はまあ、パクってるし、自己犠牲もそうかな。)
でもこの役、難しいよね、ネズミの大将が、子分(と疫病)を連れて、ヤリに行く相手なのだから、それほどの女かとみればオデコしか目に入らなくなる。
ネズミがわんさかくるのに、デップとデフォーのそばにいる猫は、善の象徴なのかもしれないが、実際何の役にも立たない。
ホルトは素晴らしき「悩める男」(オレは勝手にクルーズの後継者と思っている)も画面が暗いこともあり、その良さが発揮できていないように見える。(どうせなら、ヘルツォーク版の如くレスタト誕生をやればよかったんじゃねえかとも思ったりして)。デフォーも今回は取り立てて言うことなし。
そして、個人的期待のエマ・コリン。「チャタレイ夫人の恋人」(’22)でドキドキいただき、「デッドプール&ウルヴァリン」で大物2人をクッた彼女。
「えっ、そっち?ブラムストーカー原作側の方じゃないの??(ストーカー原作よりだと、ムフフ)」とゲスいオレは、ショック&ガッカリ倍増。
で主役のスカルスガルド。旧「ノスフェラトゥ」のハゲ、ネズミ出っ歯にすると、ペニーワイズまんまになってしまうので、どうしてこの人にキャスティングしたんだろ?と思いながら、その姿がはっきり見えたとき、「えっ、そっち??」
エガースはあれかな、あっち側の人なのかな。別に構わないんだけど、ハゲひげマッチョだとそう見えてしまうのは、すまん。偏見だと思うが、そうすると、いわゆる男性目線の「エロス」は興味がない、控えめになっても仕方ないのかもしれないが。
その姿を「あえての」悪の象徴(病の象徴)とするのであれば、「忌み嫌っているか」、デップのように「自己犠牲」をもって、悪と向き合う(抱き合う)のか、どちらとも取れそうだが、たちが悪いのは、冒頭邪悪なものを招き入れ(あるいは無理やりに襲われた)、そのトラウマを抱えて生きてきた主人公が、「(夫への)愛は世界を救う」と言いながらも、結局そのトラウマの相手としか満足できない、という「低俗な」結末にもとれることだ。
これでは、「エロス」を描きようがない。
だが、もはやオレにはどうでもいい。
追記
本作、双子の子供が「VVITCH」に続いて出てくるんだけど、本作でも容赦ない。興味深いな、エガース。
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