「残念ながら無教養な人には分からないのだろう。」果てしなきスカーレット　papa3さんの映画レビュー（感想・評価）

細田守監督が架空の国の設定にせず、なぜあえてデンマークという実在の国名を出しているのか、そのことに気づくことすらできない人のなんと多いことか。
『果てしなきスカーレット』を「つまらない」「意味がわからない」と切り捨てる人は、そもそも作品が扱っている歴史的・国際的文脈を理解していないだけだと思います。
デンマーク史には、スウェーデンとの度重なる戦争、ノルウェー喪失、ドイツとのシュレースヴィヒ＝ホルシュタイン問題など、「奪い・奪われる歴史」 が長く続いてきました。
この映画は、その傷跡と“復讐の誘惑”を下地にしているのです。
さらに、今の世界で起きている現実、ロシアのウクライナ侵攻、ガザ地区での紛争、これらはすべて、「報復の連鎖」、「正義が正義を呼び、終わらない暴力になる構造」を示しています。
こうした現代の情勢を最低限でも理解していれば、映画の“赦し”というテーマがどれほど重く、どれほど現実的か、痛いほどわかるはずです。
つまり、映画の深さを感じ取れない人は、ハムレットも知らず、デンマーク史も知らず、国際紛争の構造にも関心がないまま、ただ表面だけを眺めて「わからない」と言っているだけです。
この作品は、歴史・文学・国際情勢の文脈を持った観客に向けて作られた“教養型の映画”です。
そこに触れて初めて、その真価が見えるのです。