「逆転の『ハムレット』、ヒロインとしてのスカーレット、アニメの美しさ」果てしなきスカーレット PJLBNさんの映画レビュー(感想・評価)
逆転の『ハムレット』、ヒロインとしてのスカーレット、アニメの美しさ
事前に酷評も含めてレビューを読んで身構えていたが、そこまで言うほどではないというのが率直な感想。
映画としては言いたいことは割とシンプルで、舞台設定などの世界観はちょっと変だが、映画のスペクタクルとして見せたいシーンなどは映像が美しく、セリフよりも絵や動き、表情でドラマチックに見せる演出は見ごたえあった。キャラはスカーレットと聖以外は薄っぺらいかもしれないが、テーマ的にはこれで良いのではないかと感じた。(ただモブシーンなどは少し雑に見えるのは事実だがこれも本筋ではない)
世界観は、単純にシェイクスピアのハムレットの復讐を逆さにしている。オリジナルでは殺された王がハムレット(スカーレット)に復讐を訴えるが、スカーレットの王アムレットは、最後に亡霊として復讐をやめることを訴える。ハムレットは復讐を果たして死ぬが、スカーレットは復讐を果たしたうえで生き返る。
オリジナルのハムレットは、最初から復讐心もあるのに、直接クローディアスではなく、復讐のために狂気をよそおってまわりのポローニアスやオフィーリアを死においやるが、なかなか直接復讐することをしない。このあたり、TSエリオットがいうように、劇としてはハムレットの内面的な悩みが、復讐相手という直接的な対象を超えたものになっており、ひどく内向的にこもりきっているように見えるのだ。
スカーレットでは、復讐にたどりつけないのは死後の世界でクローディアスと隔たれた荒野のせいであるが、直接クローディアスに怒りをぶつけられない代わりに、「いい子ちゃんの」聖をなじったり(この点はオフィーリアを罵るハムレットのようだ)、盗賊やコーネリアス、ヴォルティマンド(この二人はハムレットでは隣国ノルウェーが攻めてくるかもしれないという脅威に派遣される使節である)と争ったりしている。ただスカーレットの狂気(復讐心)は、ハムレットと同様に、自分を狂気へと縛るものでしかないこと、死(復讐)だけが救いであること、などが聖のキャラクターの存在によって、変わっていくさまが特長的だ。
スカーレットは主人公らしく、最初から最後までアニメーションとしては魅力的だ。芦田愛菜も叫んだり泣いたり歌ったりしてスカーレットの落差の大きい感情や熱意や絶望を演じている。聖は必要以上にリアルではなく、シンボル的な良心であり、ふさわしい美男子だが、血にまみれたヒロインへの癒しとしてはこのような非現実的なキャラが必要のように思った。
最後にアニメーションとしては風景が美しく、なるべく監督は死後の世界を、ハムレットの翻案ではなく、現実の一部として見えるようにしたかったのではないだろうか。砂漠だけでなく雷や溶岩、海の美しさなどは、美しいだけでなく非情な冷たい風景でもある。またフラや踊り、隊商の老人たちなどはこれだけでも世界紀行の一部のようだ。(関係ないが、未来で踊る聖とスカーレットの背景となる渋谷駅は、「将来こんな駅になるのかな」と素直に思った)
そして予定調和のように雷を落として現れる武器のあちこちに刺さった大きな竜、人々が昔の武器で争う姿などは人間の「戦争の歴史」を見せたかったようだ。これらも映画としてみればスペクタクルだが、逃れられない過去と未来の現実を暗示しているようにも思える。スカーレットの表情はさわやかだが、人間の問題はまだまだ解決にはほど遠い。
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