「言うほど悪くないが良くもない」果てしなきスカーレット あるとせぶんさんの映画レビュー(感想・評価)
言うほど悪くないが良くもない
通常とIMAXを鑑賞。
事前の予告編を何度か劇場で見て、嫌な予感はしていた。
予告編冒頭で過去作のシーンを流す時点で、本編で出すべきものが無いのか、何を魅せればいいのか宣伝側が判断できていないのかと感じた。おかげでハードルを下げることができたが。
本作は興行作品としてはそれなりに楽しめる。少なくとも現在言われるほど酷評されるものではない。予算と人的リソースをつぎ込んでいるのだから当然と言えば当然か。しかし、現在公開されている劇場アニメ作品群に比べると、その仕上がりは正直厳しいと言わざるを得ない。
細田作品については、バケモノの子以降の全体的なバランスの悪さが改善されていない。鑑賞中に作品世界から客席に引き戻される事が度々あり、シンプルに最初から最後まで作品を楽しめないのが残念。
ただしアクションシーンは文句なく素晴らしい。ここだけは評価できる。いっそ、アクション見るためだけに行ってもいいくらいだ。
死後の世界を精緻な背景と2Dキャラを合わせた形で描くのはそれなりに面白いと思った(良いかどうかは別として)。
IMAXの音響は流石である。存分に楽しめる。まぁ、そのためにこちらが払うコストは安くないので、お好きな方にはオススメする程度である。
個人的に一番気になっているのが「聖の存在」である。
なぜ彼なのか?彼でなければならないのか?
彼を出すために唯一の未来人で東洋人で男性で看護師での設定がつきまとい、渋谷のダンスシーンがついて回る。
過去と未来、生と死が溶け合う世界などではなく、シンプルに死後の世界でも良かったのではないか?
彼女の許しへの過程がテーマであるなら、彼女の父親の少年時代の姿でも良かったのではないか?
なぜ「聖」なのか?これがずっと付きまとい、彼がなぜ弓を弾けるのか、馬に乗れるのか、疑問が次から次に湧いてきて、作品世界から引き戻される。
また、彼女がなぜ彼に惹きつけられるのか、急に恋心を宿すのか、あのダンスシーンでそんなに心変わりするものなのか、ラストで彼女があんなに駄々っ子のようになるのか、疑問は尽きない。
演じた岡田さんは完璧なのに、彼の存在自体が作品のノイズになっているように感じる。
ひょっとするとラストシーンありきで逆算で全体を作り上げたのだろうか。
通常なら脚本段階でラストシーンの軌道修正が検討されてもいいはずなのに、監督&脚本であるが故にその修正も効かなかったのかもしれない。
SNSなどを見る限り「芦田愛菜の演技」に疑問を呈している人をほとんど見かけない。
確かに彼女は上手い、そして器用だ。これまで他の声優作品も見ているが、これは一貫している。
ただし、今作においては事情が異なる。
彼女以外のキャストがベテラン・演技巧者の俳優・声優で占められている。端役に至るまでもう驚くほどのキャスティングである。するとどうなるか?
彼女の演技が浮いて見えるのだ。
彼女はスカーレットではなく、スカーレットを演じてる芦田愛菜なのである。
彼女が器用であるが故なのか、子役からの癖なのか、役者としての経験値不足なのか、どうしても芦田愛菜が透けて見える。特に長台詞や感情の高ぶるシーンでは顕著で、ラストのもう一人の声は単なる芦田愛菜になっている。
もし彼女ではなく本職の声優が担当したら、あるいは彼女の役者としての経験値がもっとあったなら、と想像してしまうほどに惜しい点に感じる。
本作に関して、プロモーション的にどうなのか?というのがある。
世界展開を視野にソニーを入れたのは良いが、そのために作品世界が複雑になってしまったのではないか、と感じる。
ハワイや中米、中東など様々な世界が出てくるが、必然性が感じられない。溶け合う世界を演出するためだけなら、いっそ死後(過去と現在)でヨーロッパに絞った方が良かったのではないかとも思う。
昨今のディズニー作品がポリコレを変に意識しすぎてキャラがおかしくなってるのに近いものを感じる。
世界に受け入れられるのは見た目の多様性ではなく、もっと根本的なものを真摯に取り扱うかなのではないかと思う。人種や性別を変に意識して世界観がおかしくなる方が本末転倒な気もする。
冒頭の予告編だけど、主にアニメ系作品の上映時に流れていた印象が強いが、これも逆効果だったのではないかと思っている。
近年の劇場アニメ作品はとてつもなくレベルが高く、そんな作品を見に来た客にあの予告編を見せて、見に行きたくなる客がどの位いるのか疑問である。いっそ実写系作品の前に流した方が良かったのではないかとも思う。
プロモーション側も「ポスト宮崎」としての細田作品に期待しすぎなのではないかと思う。
というか宮崎駿が特別なのかと。監督としてのスキルはそれほどでも、不足分を補って余りあるアニメーターとしての力量が凄まじい。だから作品として成立しているし、世界的な評価も高い。
そもそも細田作品も新海作品も「ジブリ的な作品」として認識している一般客が多く、そのジブリブランドすらも近年怪しくなりつつある。日テレで定期的に放送してるから知名度が保てているだけで、もはや今のアニメ観客の多くはそこを求めていないではないかと思われる。
そんな状況で「ポスト宮崎=細田作品」というプロモーションはなかなか刺さらないのではないか。輪をかけて近年の細田作品はアニメファンに受けがいいわけではない。
もう少し、作品内容自体で宣伝した方が良かったのかも。
以上、部分部分は良いが、全体としてあるいは要所要所が気になってしまい、これまでの細田作品の中でも上位には食い込めない、そんな印象でした。
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