「観客を置き去りにする脚本と演出」果てしなきスカーレット エビフライヤーさんの映画レビュー(感想・評価)
観客を置き去りにする脚本と演出
戴冠したスカーレットは、本当に争いのない平和な世をつくれるのかと問う民衆に対してこう答えた。「あなたの賛同と、協力があれば」と。
本作がシェイクスピアの『ハムレット』を下敷きに、現代の世界情勢も踏まえつつ、「復讐と赦し」「争いと平和」「生きるとは、愛とはなにか」をテーマとして製作された映画であることは周知の通りである。これらのテーマ自体は社会的意義があり、とても良いことだと思う。だが、世界観も人物造形も薄っぺらなまま「こういうもんです」と言わんばかりに突き進む脚本、唐突に挿入されるダンスシーンで観客を置き去りにする演出はいただけない。お約束のように男女間で発生する恋愛も、台詞がクサすぎて終始シラケた気持ちで眺めていた。(「泣くなスカーレット、俺が側にいる」は直前の渋谷ダンス幻覚と相まって変な笑いが出そうになった)
スカーレットの母国が傾いた原因は、端的に言って王族間の権力争いである。民主的に選ばれたリーダーが戦争を起こして国が傾いたのであれば、国民にも責任の一端があるかもしれない。だが、舞台となった中世デンマークは王政なので、決してそうではない。クローディアスという権力者の個人的かつ身勝手な欲望のせいで、国民は被害を被っているのだ。その国民に対して、平和な世をつくるためには「あなたの賛同と協力が必要」だと王女が説くのは、なかなか傲慢だなと感じた。(この台詞は、現代を生きる我々に向けているものだと理解はできるが)王族の自覚があるのであればスカーレットは最初に、国民に対して王族の暴走と腐敗を詫びるべきなのだ。
故人が遺したメッセージをどのように解釈するかは難しい。正解は永遠にわからないので、遺されたひとの心が救われるなら、どのような解釈でもよいかと思う。スカーレットは処刑場で父が遺した「赦せ」という言葉に導かれ、父を殺した叔父を赦し(無条件な赦しではなかったが)、復讐の道でしか生きられなかった自分自身を赦した。二重の意味での「赦し」はこじつけっぽくも感じるが、追い詰められて生きてきた少女が、復讐の人生から解放されたのは単純によかったと思う。
映画の体感時間はかなり長めで、画がいくら綺麗でもストーリーは決して面白いとは言えなかった。他人にすすんで鑑賞をおすすめはしない。(細田監督作品はこれから完全にセルルック3DCGへ舵を切るのかな?手書きアニメーションの味が好きだったので残念)
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