「平和を祈る歌」果てしなきスカーレット TMさんの映画レビュー(感想・評価)
平和を祈る歌
本作のテーマを一言で言えば「平和と許し」だ。
あまりにも使い古され、もはや陳腐とすら言えるテーマ。しかし本作は、それを真正面から描いている。あまりに真正面すぎて、時勢にも一般大衆の琴線にも乗れていないのだろう。
だが、それでも刺さる人には間違いなく刺さる映画だ。少なくとも、玩具のように弄ぶレビューで打ち捨てられる類の作品ではない。
では、どんな人に刺さるのか。
それは、世界の争いを見るたびに「なぜ世界は平和にならないのだろう。自分に何かできることはないのか」と心を痛める人。
そしてもう一つは――「自分の人生のクソったれは全部あいつのせいだ。命に代えてでも復讐してやる」と本気で思い、その憎しみを燃料に生きてきた人だ。
私は後者だ。
実の父に筆舌に尽くしがたいことをされた。あいつは風呂で溺れ、あっけなく死んだ。私は今を生きている。だからこの映画が刺さり、結末から勇気を貰う事ができた
正直に言えば、彼の作品は“映画”の形をしていない部分がある。
というより、舞台や演劇なら許容される表現・演出を、そのまま映像に持ち込んでいるのだ。
私は彼が若手時代に関わった『少女革命ウテナ』を何度も見返しており、その手の表現には慣れている。だから、多くの人が気になるであろう箇所――地図もないのに目的地へ向かえる理由、突然挟まる長い踊り、直前まで存在しなかったキャラが一瞬で現れる不条理――こうした“整合性の破綻”をすべて、水を飲むように自然に受け入れられた。
それらが何を意味し、何を描こうとしているのか、手に取るように分かったからだ。
だが、舞台的表現に触れたことがなく、ウテナのように演出に全振りした作品を考察した経験がない人にとっては、これは破綻した映画に映るだろう。
率直に言えば、細田氏は「監督」ではなく「演出家」だ。だからこそ演出を優先し、物語や設定が毎回どこか歪になるのだと思う。
それでも、話の整合性やスマートな脚本ではなく、その底にある幼稚にも見えるが切実で誠実な祈りに共鳴できる人が観れば、これは間違いなく名作だ。
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