劇場公開日 2025年11月21日

「脚本は才能のある人に任せて」果てしなきスカーレット ミドレンジヤーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 脚本は才能のある人に任せて

2025年11月23日
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初日からものすごい酷評の嵐。
チケットを買ってからそれを知ったワケだけど、まあ観ておくか、という感じで参戦。

映像はすごい。
群衆の動きとか、自然表現とか、あとアクションシーンもかなり細かくこだわってる感じは伝わってきた。

たださあ。
やっぱり脚本と演出と「人」ですよ。

この映画の舞台となる「死者の国」という場所は、死んだらみんな(その時代も場所も問わず)ここに落ちるらしい。
ま、「黄泉の国」「三途の川」ですね。(賽の河原もあったし)
ここでさらに死ぬと「虚無」つまり消滅し、徳を積むか何かすると「見果てぬ場所」つまり天国へ行けるみたい。

で、この「死者の国」ではまだそのどちらとも決まっていない、死んで落ちて来た人達が大勢、現世と同じ関係性で生活してるとな。
それ、地獄より地獄じゃん。
「時代も場所も関係ない」はずが、ほとんどが中世の人々で、聖と同じ現代の人は他に出てこない、東洋人もほぼいないという雑な世界。

誰と誰が争っているのかよく分かんないけど、まあ争いや略奪が絶えないこの世界で、死んだ主人公スカーレットは謀略ですでに殺されていた父の仇を討とうと旅をする。

物語は最終的に「生きるとは」「死ぬとは」「愛とは」を問いかけてるっぽいんだが、人が死んでも現世とほぼ同じ、いや何ならより厳しいこの死者の国でまた永く暮らしていくという設定上、本来の「現世での生死」がすごく軽く感じられてしまう。
だってここ「現世のセカンドステージ」ってことでしょ。
作り手が生み出したこの設定が、作品のテーマをむしろ矮小化させている。

そして、あえて国も時代も異なる「聖」というキャラを登場させたのは、当然中世ヨーロッパで起きていたことと、現代日本で起こっていることを並べたいからってことなワケでしょ。
でも、あの時代に起きていた「私欲のために謀略によって家族でさえ手にかける」という話と、現代で起きている「理由不明の、子供をもターゲットにした通り魔的殺人」を並べる意味って?
少なくともそれは映画からは伝わらなかったし、同じ様に「他者と自らを赦せ」と?

そして登場人物たち。
スカーレットはずっと復讐に闘志を滾らせていたのに最後急に可愛いセリフや仕草になったり、聖はいかにもな頭がお花畑クンで、看護士だから人は傷付けないって言ってたのに、やるときゃやるし。
これは決して彼らの「成長」ではないと思うんだが、パンフレット読んだらそれぞれキャストや作り手が「そこは大事なシーン」みたいなことも言ってて、無意識じゃなく自覚的にキャラ演出を壊しにキてるんだと分かった。
だったら、観客としては乗りにくいよね。

作品のモチーフは「ハムレット」ってことで、シェイクスピア役者達をまあ見事に声優陣に揃えて、彼らの演技はさすがの迫力だったワケだけど、肝心のスカーレットを演じた芦田愛菜は、以前から思っていたけどやはり声優には向いてないと思うんだよね。基本的に声の張り方がずっと同じ。
つか、今回特に声質が「復讐のために鍛え上げた戦士」とはやっぱり違うよなって感じ。

途中「祝祭の唄」っていう歌がカギになって、噂のダンスシーンに入って行く。「なぜここでダンスシーン?」ていう当然の疑問とは別に、なぜこのタイミングで、この場所で、このダンスで、こんな歌なのか。
全部の選択を誤っていないか。
おまけにこの歌は短いシークエンスの中で都合4~5回くらい聞くことになるんだけど、前提として二人は復讐のために苦しい旅をしているのに、歌が不必要にポップなのが、まったく場面にそぐわない。
で、これもパンフレットで監督自身が「シーン毎に印象が違って聞こえる」と絶賛しているのを読んで、ああ、私とは感性が違うんだなと痛感した次第。

パンフレットのインタビューなどを見る限り、総じて観客が違和感を抱くシーンや設定について、作り手はむしろ「あえて」やってるっぽい。
まさにこのスタンスが観客の「すごくイヤな感じ」を刺激するんじゃないだろうか。

この映画を観ていて、作品から何かメッセージが伝わってくる、ということはほぼない。
こっちからあえてメッセージを拾いに行くなら、そういう観賞の仕方はアリかもだけど。

だから、私はこのスクリーンで起きていることに全然興味が湧かなかったことで、巷が過度に酷評する感じも分からないし、そんなにムキになるレベルの作品じゃないでしょ、と思っている。
(前作「未来のミライ」「竜とそばかすの姫」辺りの反応で世の中にその批判的な傾向はあったのかもね。だって本作、初日の客入りはかなり悪かったって話なのに、レビューだけがものすごい数になってるってことは、観る観ない問わず当初から酷評目的の書き込みが一定数いるんだと思うよ。観ないで書き込むヤツはマナー最悪だな。)

もちろん、楽しみにしていたファンや、せっかく時間を作ってお金払って、年に何回かの映画鑑賞、家族や大事な人と…なんていうお客さんがそう感じたなら大変気の毒だと思う。

だから、細田監督にははっきり突き付けたほうがいいよね。
「物語は才能のある作家と脚本家に任せて、映像作りに専念しろ」って。

「時かけ」「おおかみこども」が好きで毎回公開時は観にきてる私としても、これで彼が活躍の場を奪われることになるのは望まないので。

ミドレンジヤー
イナバヒロシさんのコメント
2025年11月24日

私の評価は、☆4共感です!映像が素晴らしいです!

イナバヒロシ
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