「果てが見えたか細田守」果てしなきスカーレット 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
果てが見えたか細田守
『時をかける少女』『サマーウォーズ』で飛躍。
『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』で当代きってのヒット・アニメーション作家に。
日本では賛否多かったが、『未来のミライ』では米アカデミー賞アニメ映画賞ノミネート。
さらに特大ヒットを放つアニメーション監督の台頭や人気作入り乱れるアニメ戦国時代の昨今でも、『竜とそばかすの姫』が自身最大のヒットで健闘。
国内に留まらず世界も注目する細田守監督。
これまでで最長4年の歳月を経た最新作は、明らかにこれまでとは違う。
ファンタジーや電脳世界を入り交えながらも、現代日本を舞台に家族や若者の物語がほとんどだった。
中世デンマークと“死者の国”を舞台にし、ヒロインも無論日本人ではなく、その時代の王女。アクション要素も多く、異世界冒険ファンタジーのような装い。
映画監督が新たなジャンルに挑戦するのは珍しい事じゃない。細田守にもいよいよ“その時”が…。
入魂の新境地!…と誰もが期待したが、
公開からまだ日も浅いが、酷評が圧倒的多数。
人気アニメーション監督の宿命。新作を発表する度に賛否両論。細田守がそれが多くなったのは『バケモノの子』から。これは細田守が自身で脚本を担当するようになってからと一致する。(『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』は今年『国宝』も手掛けた名手・奥寺佐渡子だもん、比べるのは酷)
『未来のミライ』や『竜とそばかすの姫』でも酷評多かったが、今回はこれまでにも増して。“0”や“1”が目立ち、作品になぞらえるなら見た後“虚無”になったかのよう。
年末の期待作の一つだっただけに、ちょっと不安を抱きつつ、鑑賞。
“0”や“1”の酷評ほど悪くはなかった。概要や伝えたい事も大体は分かった。
でも、所々釈然としない点も…。これらがじわじわボディブローのように作品のクオリティーや面白味を損なわせる。
父王を叔父に殺された王女スカーレット。
仇を取ろうとするが、先手を打たれ毒を飲まされ…。
目覚めると、“死者の国”にいた。叔父もこの世界にいる事を知り、スカーレットは復讐の旅に出る…。
『ハムレット』を下敷きにしたのは一目瞭然。ちなみに父王の名は“アムレット”。
この“死者の国”の設定が時々“?”。
荒野で現代日本の看護師の青年・聖と出会う。“死者の国”だから様々な時代や国の人々がいるのであろう。それはいい。
殺されたからスカーレットも分かる。でも、何故叔父もいる…?
いきなりネタバレしてしまうが、叔父は現世で毒を盛られ殺された。なら分かる。そしたら、まさかのスカーレット。実は死んでおらず、生死の境を彷徨っていたという事実。なら、スカーレットが“死者の国”にいる理由がちとあやふや。
“死者の国”には民も多い。ならば“死者の国”などとあやふやにせず、現世舞台で良かったのでは…? 毒を盛られて死んだと思われたスカーレットが追放された最果ての地で息を吹き返し、復讐の旅に出る。その上でドラゴンやファンタジーもちょい織り交ぜた世界観で。その方がシンプルだった気もするが…。
『バケモノの子』の鯨のように何か意味があると思ってたドラゴン。時折現れて雷天誅するあれは何だったの…?
復讐だけに取り憑かれたスカーレット。
例えスカーレットに襲い掛かった刺客であろうと人の命を救おうとする“いい子ちゃん”聖。
反目し合いながらも旅の中で生じる。死とは? 生きるとは? 信じるとは? 愛とは…?
道中出会った遊牧民。ボロボロに傷付けられても、それでも信じたい。
そんな人たちで集ったコミュニティーは、平穏と歌と踊りがある。
触発されて聖も歌う。その歌に導かれるかのように、スカーレットの意識が現代日本へ。
もし私が、この時代この国に生まれていたら…? その儚き意味合いも分かる。
しかし、この謎過ぎる唐突のミュージカル演出。現代日本に生まれていたら私はダンサーで、聖と踊りたかったの…? やる必要あった…?
楽曲も細田作品の魅力。『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』の主題歌、特に『竜とそばかすの姫』の楽曲は作品を盛り上げてくれた。
本作でもスカーレットと聖の距離を縮める歌。EDは芦田愛菜が美声を披露。でも、あまり印象残らない。
声優の仕事が多い芦田愛菜。だけど今回は予告編を見た時にあまり合ってないような違和感が…。実際見てみたらそこまでではなかったが、ちと窮屈感が…。叫びや唸り声などこれまで最も激しかったであろう声の熱演にはがんばったで賞。
細田作品の常連、今回は仇役に扮した役所広司のラストの絶叫はさすがであった。
他にも岡田将生や豪華俳優ボイス・キャスト。ネームバリューや日テレ大番宣など、今回はいつも以上に商業臭が匂う。
シンプルな手書きがスタイルだった細田守。
本作では3DCGも使用。激しいアクション・シーンやダンス・シーンで動きのベースに。
より実写のような動きを見せるが、ちとぎこちなさも見え隠れし、これまでのような躍動感は感じられなかった。
美しく、勇ましいスカーレットのキャラデサは良かっただけに、惜しい。
キャラに今一つ感情移入出来ないのも残念。いや、致命的か…?
それは設定や物語の展開にも言える。
死者の国で叔父や皆が望む“見果てぬ場所”。
何故皆がそれを望むのか、いまいちよく分からなかった。現世に蘇られる…? そんな説明あったっけ…? 聞き逃した…?
全体的に説明不足も多々あり、それが登場人物や世界観に入り込めない要因でもあった。
“見果てぬ場所”を我が物にせんとする叔父。その元に遂に辿り着いたスカーレット。
スカーレットは剣を抜くが、叔父は“見果てぬ場所”の門の前で懺悔をする。
それを聞き、スカーレットは…。
処刑される寸前、父が発した言葉。後から知ったが、父が言ったのは、“ゆるせ”。
これは“許せ”なのか、“赦せ”なのか…?
心底憎い奴を許したくない。懺悔したと見せ掛けておぞましいほどの本性を現したこの叔父など。
しかし赦さなければ、この世界の争い事は無くならない。
憎むより、赦す事。そして、愛する事。
それが本来の君だ。
父の望み。聖の望み。
復讐や憎しみの果ての赦しは尊い。
しかし、それに至るまでのスカーレットの心の旅路がちと分かり難いし、伝わり難い。
本当に何か色々と惜しい。
実は死んでいた聖との別れ。聖が死なない平和な未来を約束する。
現世に戻ったスカーレット。女王となり、民の前で未来永劫の平和を約束する。
細田守が本作のアイデアを思い付いたのはコロナ禍だったという。あの暗く沈んだ窮屈な時からの解放。
世界中で絶えぬ争い。平和への願い。
これらに対し何かを作りたかった細田守の訴えも分かる。信じる事。赦す事。生きる事。愛する事。…
が、ちと力み過ぎたかな…。伸び伸びさが乏しかった。
細田作品を見終わった後のあの爽快感、感動、晴れ晴れとした気持ち…。
あの心地よさに浸りたかった。
決して“0”や“1”や、今年ワーストではなかったにせよ…、
現時点では、これまでの作品のように何度も見たいとは思えず。
これが細田守の“果て”か…?
いや、まだきっと目指せる。見せてくれる。
細田守の“果てしなき”を。
共感ありがとうございます!
細田守監督は、「竜とそばかすの姫」から明らかに方向転換していますね。自分はどんな作品でもファンなので良いのですが、エンタメ重視だった今までと違い、前作では児童虐待とSNSの陰と陽を主題にしたメッセージ色の強い作品になりました。
たぶん今回もロシアとウクライナの戦争や、イスラエルとパレスチナの56しあいに一石を投じたかったのだと思います。既に世界中で上映する準備はできているので、あとは日本以外の国々でどのように受け取ってもらえるかが気になります。
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