「野心的な挑戦をした作品ではあるが、やはり失敗している」果てしなきスカーレット よしてさんの映画レビュー(感想・評価)
野心的な挑戦をした作品ではあるが、やはり失敗している
正直に言うと、私は近年の細田守作品が苦手です。『サマーウォーズ』以降は一通り観ているけれど、満足できたのは『バケモノの子』の前半くらい。「社会的なテーマ」を扱おうとする割に、そこへの興味や理解が薄くて、観ていて「底が浅いなぁ」と感じることが多いのが事実。
今回、舞台を現代日本から「中世ヨーロッパ」に移したのは、そうした「現代社会描写のボロ」を隠すための野心的な試みだったのだと思う。中世ファンタジーなら、社会常識やリアリティラインが多少甘くても厳しいツッコミはされないだろう。しかし結果的に、その試みは失敗だった。中世という過酷な舞台を用意しながら、そこに現代日本の凡庸な「平和主義」を安易に持ち込んだことで、物語の整合性が崩壊してしまっている。
『ハムレット』と『神曲』をモチーフにしているけれど、ひねりがなくて「そのまんま」。前作の『美女と野獣』引用もそうだったけど、設定やキャラを借りてきただけで、換骨奪胎の域には達してない。主人公スカーレットは「復讐に燃える王女」という役どころなのに、父の「許せ」の一言であっさり復讐を捨てて、「平和」「融和」みたいな現代的な理想論を語り出す。中世の過酷さを描くフリをして、結局は監督の言いたい「ふんわりした道徳」に着地するから、まるで児童向けにリライトされた「ハムレット」を見せられている気分になる。
脚本の粗もかなり目立つ。物語を引っ張るはずの「王の最期の言葉が聞こえない」という謎を、中盤で敵があっさり教えてしまうから拍子抜けだし、サスペンスになっていない。現代日本から転生した看護師・聖の存在も中途半端で、主人公スカーレットとともに旅をするものの、その思想に決定的な変化を与えるわけでもなく、クライマックスで「実は自分は死んでいた」と明かされるけど、それはそれで予想の範囲内で特に驚くことでもなかった。
何より致命的なのは映像的な退屈さ。
「中世(現実)」と「死者の国」を行き来する話なのに、どっちの世界も薄暗くて代わり映えしない。特に死者の国は、古今東西の試写が集まる設定のように思えるが、明らかに中世以外から死者の国に来ているのは聖だけ。ヨーロッパ圏以外の人間もいるにはいるが、その他大勢として描かれるだけで、名前を与えられ活躍するのはスカーレットとクローディアスとその部下たちと現実パートと代り映えがしない。
絵的にも延々と続く荒野や砂漠ばかりで、背景美術は確かに美しいものの淡白で、その中に3DCGキャラがポツンと立っているだけのシーンが多くて、絵としては美しいけど退屈で眠くなる。
園村健介さんや伊澤彩織さんを起用したアクションシーンはかなり頑張っているものの、彼らが過去に携わっていたような、強烈に印象に残るようなものにはなりえていない。
また、過去の細田作品にあったような、アニメーションの根源的な喜びを思い起こさせるようなシーンも皆無であった。
演出もアンバランス。見ていてわかるような心情や状況まですべてキャラクターにセリフで喋らせるし、背景的な説明も謎の老婆が全部説明してくれる。そのくせ死者の国がどのようなルールで成り立っているかなどは、きわめてわかりにくく、物語への没入を阻害している。
結局のところ、舞台を変えても監督特有の「ご都合主義」と「思想の浅さ」は変わらなかった。古典の重厚な器を借りてきたのに、中身はいつものスカスカな現代劇。そんな残念な一作だった。
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