劇場公開日 2025年11月21日

「83点/☆3.5」果てしなきスカーレット 映画感想ドリーチャンネルさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 83点/☆3.5

2025年11月22日
Androidアプリから投稿

『時をかける少女』『サマーウォーズ』で国内外から高く評価されてきた細田守監督が手がける、完全オリジナルの長編アニメ。
王女スカーレットと、現代日本から死者の国へ迷い込んだ青年・聖──まったく異なる世界の二人が「生きる意味」を探す旅を描く。

父を殺して王位を奪った叔父クローディアスへの復讐に縛られ、死者の国を彷徨う王女スカーレットの声を演じるのは芦田愛菜。
戦いを望まず、敵にも味方にも分け隔てなく接する聖を演じるのは岡田将生。

私は3回ズッコケた。
急に歌い出す。急に踊る。突然ミュージカル。何度か「今の何!?」と置いていかれる。

とはいえ、壮大な世界観とファンタジーとしての大胆なスケールは、まさに細田監督の真骨頂。
ただ近年の細田作品は、新海誠的な音楽へ寄りかかる構成が増えつつあり、どうしても脚本に奥寺佐渡子が参加していた時代の完成度を思い出してしまう。
奥寺が離れたことで細田監督が脚本を自ら引き受けざるを得なくなり、その難しさが滲んでしまう場面があるのも確かだ。

物語の核となるのは、父が最期に残した一言──「許せ」。このひと言の狭さと広さが、全編のテーマになっている。

復讐に取り憑かれ、目的を果たせば消えると断言するスカーレット。対して聖は、現代の価値観から必死に語りかける。

生きたくても生きられない命がある。生きることが苦しい人もいる。違う時代、違う立場に生まれていればもっと自由だったかもしれない。それでも私たちは「ここに生まれ、今を生きている」。

君は王女として生まれた。それは避けられない宿命で、もっと自由に生きられればよかったのにと思わずにいられない。けれど、王女に生まれたからこそ果たせる役目もある。

「許せ」という言葉には
・憎しむ相手を許し、争いを終わらせる意思
・王女という境遇に生まれてしまった苦しみ
・こんな選択しかできなかった自分自身を赦す願い
・復讐の連鎖を断ち、未来へ進めというメッセージ
受け止め方は無数にあるが、結局「生きる」という行為はどこかで許すことと繋がっているのだと気づかされる。

ヌルヌルと滑らかに動く3Dモデルのアニメーションは、まるで本当に命を宿した人間のように多彩で繊細な動きを見せ、技術の進歩を実感させてくれる。
群衆シーンでも一人ひとりに細かな芝居がつけられており、そのこだわりは圧巻だ。
映像表現への執念と、アニメとしての進化を随所に感じられる。

ただその一方で、物語の途中に突然差し込まれるダンスや歌にはどうしても戸惑うし、何回ラリーすんの?と突っ込みたくなる会話の応酬には疲れる。
不意に挟まるシンジ君ばりの自問自答には目を丸くし、母親の言動には普通に腹が立つ。
竜が何者なのか、生死の境界がなぜ曖昧なのか、聖はどうして現代から飛ばされたのか、そんな理屈で説明しようとすること自体が、きっとこの作品にとっては野暮なのだろう。

リアリティの整合性よりも、寓話としての感性で語られる世界。
歌い、踊り、迷い、泣き、それでも立ち上がり、自分の人生を掴みに行く。物語が最終的に辿り着くのは、とてもシンプルなメッセージ。
強く、生きろ。

細田監督が、観客に向けてそう語っている作品。

映画感想ドリーチャンネル
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。