「シェイクスピアファンとしてはかなり残念な出来」果てしなきスカーレット sugsyuさんの映画レビュー(感想・評価)
シェイクスピアファンとしてはかなり残念な出来
クリックして本文を読む
「水星の魔女」「キャプテンアース」程度の装飾的引用ならともかく、これほど本編そのままを使用しながら、元ネタへのリスペクト皆無なのはむしろスゴイ。なにしろ「ハムレット」といえば文学史上の金字塔、評論も再演もパロディも無数にあり、どのような解釈・演出も許容するような奥深い作品だ。それをちゃんと読み込んだなら、これほど薄っぺらい作品に仕上がる筈はないだろう。親子関係、近世の政治・王制・宗教戦争、いくらでも現代性のある切り口はあったはず。無意味な改変で、17世紀の戯曲よりもリアリティが減じているのも酷い。あんな乱雑なやり方で王位が簒奪できるはずもないし、できたとしたらそんな王は暴君より質の悪い暗君だろう。なにより不味いのは、ヒロイン・スカーレットがまるで苦悩しないこと。復讐者が愛の力で心救われる…という骨子は骨子のまま剥き出しに過ぎて、その場その場で反応する軽薄さとしか受け取れない。死後の国、と言いながら、実質2度目の生を与えられたフィリップ・ホセ・ファーマー「リバーワールド」的な世界はもっと書き込めば魅力的にもなるだろうが、劇中ではまったくリアリティのない退屈なバトルフィールドでしかない。あれだけの人数を養う生産性はどこに?などの疑問も最後までつきまとい、下部構造にリアリティがなければ、戦争も反戦も元より論じられるものではない。細田守の本来の美質たる繊細な演出も3DCGのためかまるで感じられず。見せ場の一つであるはずのダンスシーンも、「ガルクラ」「ポールプリンセス」などを経た2025年に劇場スクリーンに映していいクオリティではない。
コメントする
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。
