「退廃的でありながら、なぜか悲しく美しい。」クラッシュ(1996) 和田隆さんの映画レビュー(感想・評価)
退廃的でありながら、なぜか悲しく美しい。
製作から25年を迎えた今年、“4K無修正版”でリバイバル公開された、デビッド・クローネンバーグ監督の「クラッシュ」は、鑑賞する前までの自分の中のモラルとは何だったのかを改めて問い、破壊してくれる異形の傑作だ。
日本で劇場公開された97年当時、20代前半でこの映画を最初に鑑賞した時の衝撃の記憶は色あせることなく、20数年ぶりに見返してみるとむしろその強度は増し、古さをまったく感じさせない。“4K無修正版”という完全体でよみがえったことによって、映画としての新たな美しさを放ったと言っていい。
カークラッシュ、飛行機の格納庫や車中での過激で倒錯的な性行為、死と隣合わせの危険な快感への目覚め、人体損壊と車体の破損への欲求と美意識という究極のフェティシズムなど、あなたはどのシーン、どの欲望に興奮するだろうか。全編8割以上のセックスシーンを楽しむのか、それとも車体や人体の痛々しい傷跡に恍惚とするのか、はたまたそういった後戻りできない世界にどこまでも堕ちていく主人公たちの姿に共感し、自分の中に眠っていた危険な欲望への扉を開くのかは、あなた次第だ。
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