劇場公開日 2021年1月29日

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クラッシュ(1996) : 特集

2021年12月10日更新

R18+、4K無修正版
自動車事故に欲情する人々を描いた鬼才クローネンバーグの問題作

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話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。本日12月10日から、「ザ・フライ」「裸のランチ」などで知られるカナダの鬼才デビッド・クローネンバーグ監督がイギリスのSF作家J・G・バラードの小説を映画化し、第49回カンヌ国際映画祭で審査委員特別賞を受賞した「クラッシュ」4K無修正版の先行独占配信がスタートしました。
※シネマ映画.comではHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。

自動車事故をきっかけに倒錯的なセックスにのめりこむようになった男女の姿を描き、過激な性描写などで賛否両論を巻き起こした作品です。このほど、映画.com編集部が見どころを語り合いました。

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クラッシュ 4K無修正版(デビッド・クローネンバーグ監督/1996年/100分/R18+/カナダ)

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<あらすじ>

倦怠期にあったジェームズと妻キャサリンはハイウェイで衝突事故を起こす。やがてジェームズはその事故で夫を亡くしたヘレンと再会。事故の瞬間にエクスタシーを感じ、それを忘れられなかったジェームズはヘレンとセックスをし、さらに自動車事故で性的快感を得た者たちによる集会に参加することに。その指導者的存在の男ボーンはジェームズとキャサリンをさらなる官能の世界に導いていく。


座談会参加メンバー

ホンダケイ、和田隆、荒木理絵、今田カミーユ


■時代を経ても色褪せない衝撃、無修正版でよりクリアに

和田 1996年製作、日本では97年に劇場公開され、製作25年を迎えた今年「4K無修正版」でリバイバル公開されました。今また見返しても色あせることのない問題作、異形の傑作ですが、「4K無修正版」ということで、その衝撃度はみなさん初見の時と違いはありましたか?

ホンダ だいぶ忘れていました。例えばイライアス・コティーズのタトゥーが背中にあったと記憶していたり。でもラストを含めた衝撃は変わらなかったです。その後も過激な映画も多く生まれましたが、やはり「クラッシュ」は今も群を抜いてすごいですね。

今田 私は10代の頃レンタルVHSで見ました。画質もあまり良くなく、当時はまだ若すぎていろいろと理解できなかったのですが、大人になって見たこの無修正版はいろんな意味で鮮烈でした。カンヌが賞を与えたというのがすごいです。

荒木 クローネンバーグ作品自体が初見だった私は、かなり驚きました。笑 これで賞獲ってるんですね!

ホンダ かなり物議を醸したようですが、カンヌ映画祭で審査委員特別賞を獲ってますね。審査委員長はコッポラです。ただ、ストーリー的には女性たちが受け身なのが気になり、時代を感じました。

■異常性愛、フェティシズム……特異なエロスの在り方に驚く
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荒木 流れるように自然に危険なフェティシズムに傾倒していくスピードが凄いですね。原作のJ・G・バラードがかなりその分野で尖ってるんでしょうか。

今田 原作も読んでみたいです。柳下毅一郎さんが翻訳されていますね。映画の中のみなさん、事故や車の前では、愛や性別だとかは関係なくフリーダムな感じで発情していたのに驚きました。エロスというものの底知れなさを感じました。

和田 そうですよね。どこか現実を見ていないような主人公たちの虚ろな目つきが気になりました。特にジェームズの奥さんのキャサリンは常にどこか遠くを見ているようです。

ホンダ 男性同士、女性同士、クルマ同士でぶつかり合ってましたからね。キャサリン役のデボラ・カーラ・アンガーの演技は際立った存在の女性を見事に演じてました。

今田 ケネス・アンガーなども想起しましたけど、車やメカ関連は不思議とエロティックな表現と結びつきますよね。人間性の対極にあるようなものなのに……と考えさせられました。

和田 人体損壊と車体の破損への欲求と美意識って……自分にそんなフェチがなくても、どこか共感してしまうのは、なぜなんでしょうw

荒木 私は日本のアーティストの空山基さんを思い出しました。フェチって奥深いですよね。何か知らない言語で楽しそうに話している人たちを見てる気分でした……。

ホンダ 流線型のプロダクツに女性美を見る人たちもいますし。そういえば「21世紀の『クラッシュ』」と言われるフランス映画「TITANE」も話題になってますし、不変な部分はあるんでしょうね。

今田 今年のパルムドール作ですね。

ホンダ そうですね。「RAW 少女のめざめ」のジュリア・デュクルノー監督。すごい才能ですね。

今田 「RAW」では生肉フェチを描いてましたからねw

■鬼才、クローネンバーグのこだわりと名スタッフたちによる仕事

ホンダ 「クラッシュ」に戻ると、とても治療には役立ってなさそうなギブスとか、出てくる器具がクローネンバーグっぽくて良かったです。器具部品フェチなのか「戦慄の絆」の手術道具、「裸のランチ」のタイプライター、「イグジステンズ」の銃なども記憶に残ってます。

今田 クローネンバーグの作品は細部への変態的なこだわりを感じますね。画や音楽もカッコ良かったです。情感ある生々しいエロスではなく、死へ向かう硬質な美しさというか。

和田 死と隣合わせの危険な快感への目覚め、後戻りできない世界にどこまでも堕ちていく様にゾクッとします。ハワード・ショアの音楽も印象的でした。

ホンダ 音楽、良かったですね。撮影も素晴らしかったです。ベッドシーンが生々しくならないのは撮影の功績かも。

荒木 確かに! きわどいシーンも美しかったですね。

今田 カメラは「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」とかも撮ってるピーター・サシツキーです。

ホンダ そういえば今回の無修正版というのは、セクシャルな該当部分のことですか? それともバイオレンス描写ですか?

和田 97年当時のものに修正(ボカシ)がどれくらい入っていたかは記憶にないのですが、今回は主にセクシャルな部分のことではないかと。公式リリースには「R-15指定版」を大きく上回る、美麗かつありのままの映像による衝撃を堪能できるとあります。

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■1997年、公開当時の評判は?

和田 ホンダさんは「クラッシュ」の日本での劇場公開当時(97年)はすでに映画業界にいらっしゃったのですか?

ホンダ もう映画の仕事をしてました。クローネンバーグは「ザ・フライ」大ヒットのあと、評論は高かったんですがヒットからはちょっと遠ざかっていて。でも、この「クラッシュ」でまた注目を浴びた感じになりました。

和田 当時ミニシアター全盛期だと思いますが、業界的にもかなり盛り上がったんですかね?

ホンダ これの前作「エム・バタフライ」が単館ながら大ヒットしましたね。ただ、先ほど言ったようにクローネンバーグというより、女性を演じたジョン・ローンが話題になってましたが。前年にはニール・ジョーダンの「クライング・ゲーム」という作品もありましたし。

和田 ジョン・ローン、懐かしいです!

ホンダ それを受けての「クラッシュ」で、確か丸の内ピカデリー2ほか都内5館程度のチェーン公開だったかと。アークエットの脚の傷が大写しの横位置フライヤーで。

和田 丸の内ピカデリー2ですか、結構大きな劇場で公開されたんですね。

ホンダ 「セックスと嘘とビデオテープ」のスペイダーはじめキャストも豪華だったので、カンヌ受賞の衝撃作、という宣伝をしてましたね。

今田 今はネットでポルノ映像が簡単に見られる時代なので、ヌードやヘアなどということよりも、こういった対物性愛の世界をリアルに描いているのが新鮮かもしれませんね。公開当時よりも、この特異なテーマに集中できるような気がします。

ホンダ 「カーズ」の闇落ち版、とでも言いますか。最近のアニメは「ウマ娘」「ガールズ&パンツァー」「艦隊これくしょん」のように擬人化するのは常識だったりするんでしょうか? そうだと、ユーザーにはより身近になってる気がします。

荒木 闇落ちw こういうアンモラルなテーマを扱う作品は最近なかなか見られませんからね。擬人化はオタク文化では普通だと思いますw そう考えるとそれもフェチですね……。

ホンダ なるほど、「クラッシュ」のようなセクシャルな要素はなくても、友情とか対立とか人間関係の複雑さみたいなものはあるのかなと。

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■クローネンバーグを知らずとも楽しめる“変態”“カークラッシュ”映画

ホンダ あと、ネットで書かれてたんですが、カークラッシュがすごい映画は、この「クラッシュ」とタランティーノの「デス・プルーフ in グラインドハウス」、ダリオ・アルジェントの「4匹の蠅」だと。

今田 クローネンバーグを知らなくても、カークラッシュファンも楽しめる作品ですね。

和田 今回の「4K無修正版」はどんな方におススメでしょう?

ホンダ こだわりが強い、いわゆる変態さん、じゃないでしょうか? 

荒木 世の中のキレイゴトに疲れた変態の方々に、リラックスして見ていただきたいですね。

今田 先日、取材でギャスパー・ノエが、自分はとても穏やかな性格だし、クローネンバーグはとても礼儀正しい人だと言ってました。そういった情報から尖った作風とのギャップも楽しめます。

ホンダ 俳優としても素晴らしいですからね、クローネンバーグ監督は。「ミディアン」ではモンスターばかりの中で、素のままなのに一番怖く見える。 なんと言ってもリンチと並ぶ2大デビッドですから。

今田 内面がにじみ出るのでしょうね……。

ホンダ あとひとつ。今回改めて気付いたのですが、かなり危険な状況で演出してましたね。キャサリン、ジェームス、ボーンの3人のドライビング・シーンは、俳優本人がリアルに乗ってるように見えます。キャストにムリさせてるなと思いました。

「デッド・ゾーン」では主演の クリストファー・ウォーケンが未来を見るシーンを撮るとき、本人に知らせずに突然、銃の空砲を鳴らすことで驚きの表情を引き出してたと聞きました。

和田 クローネンバーグの演出法なんでしょうね。そういったところにも注目して見るとさらに深くこの作品を堪能できると思います。

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