28年後... : 映画評論・批評
2025年6月24日更新
2025年6月20日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
世界観も感染者も異様な変貌を遂げた終末ホラー、新たなる幕開け
人間の理性を一瞬にして破壊する新種ウイルスの恐怖を映像化した「28日後...」(2002)は、その後の感染パニック映画に多大な影響を与えた記念碑的なホラーだ。後日譚の「28週後...」(2007)も成功を収め、第3作「28ヵ月後...」の製作が待ち望まれていたが、惜しくも幻の企画となった。しかし新型コロナウイルスのロックダウンのさなかに「28週後...」の予見性が再評価され、新たなプロジェクトが始動。シリーズの創始者であるダニー・ボイル監督とアレックス・ガーランド(脚本)のタッグによる「28年後...」がついに完成した。
まず、ポスト・アポカリプス的な世界観からして興味深い。島国であるイギリスは、NATOの海上封鎖によって国際社会と隔絶。感染を免れた人々は避難先の小さな島で共同体を築き上げ、厳格な掟を守りながら自給自足の生活を送っている。その島は干潮時に現れる土手道によって本土とつながっており、ひと組の父子が本土へと旅立つ。あどけない少年スパイクは、父ジェイミーの指導のもとで“感染者狩り”を経験することになる。それは12歳にして大人になることを求められるスパイクにとって、まさに命がけの通過儀礼だ。

かくして私たち観客は、初めて本土の地を踏んだスパイクの無垢な視点を通して、想像を絶する28年後の光景を目の当たりにしていく。一新されたのは世界観だけではなく、レイジ・ウイルスの変異株に冒された感染者は複数の種類に枝分かれしている。森の中を四つん這いでうごめく“スローロー”のおぞましい風貌と生態には、誰もが「うげーっ」と嫌悪感をもよおすだろう。それ以上に警戒すべきは、体格と運動能力の両面が増強された“アルファ”だ。この恐るべき怪物に遭遇したら、原始的な弓矢しか武器を持たない父子は闘わずして逃げるほかはない。
ゴア描写も凄まじいが、何よりアンソニー・ドッド・マントルが撮影監督を務めた2.76・1の超ワイドスクリーンのビジュアルに目を見張る。とりわけ丘の向こうから感染者の群れのシルエットがひたひたと迫ってくるショット、広大な菜の花畑に感染者が出現するシーンなど、美しさと不気味さを取り混ぜたボイル監督の描写が冴え渡っている。さらに「教皇選挙」の名演が忘れがたいレイフ・ファインズのあっと驚く助演も加わり、異様な緊迫感を帯びた映像世界に息をのまずにいられない。
そして本作は前2作と同様に“家族”をテーマにしている。前述の父子と重病の母(ジョディ・カマー)の過酷な運命がドラマの軸となるが、その物語はクリフハンガーでひとまず幕引きとなる。なぜなら本作は、新たな3部作の1作目という位置づけだからだ。とはいえ、ニア・ダコスタがメガホンを執る次回作「28 Years Later:The Bone Temple」はすでに撮了し、来年1月に公開される(日本公開日は未発表)。「28年後...」の“その先”への期待はふくらむばかりだ。
(高橋諭治)