「犯人への評価は見る人によって変わりそう」新幹線大爆破 グレーてるさんの映画レビュー(感想・評価)
犯人への評価は見る人によって変わりそう
シン・ゴジラの現場感やチーム感が好きだったのでこの作品もすごく楽しめました。
ただ、シンゴジの時も感じた登場人物の「駒」っぽさは今回もありますし、モブの表現や動きも画一的だなあという感想はあります。
その中でも私が人間性が感じられたのが犯人の2人。
特に女子高生の方。
これを「あり得ない」とか「動機が薄い」と言う意見がありますが、女性視点で見れば充分納得出来る動機であり、「そんなことで?」とか「あんなこと女子高生に出来るわけがない」という(おそらく男性からの)感想こそ、彼女の抱える闇と地続きだと思いました。
「せめてオスなら」
↑これ、ネットのミサンドリスト(一部のツイフェミと呼ばれる人達)がよく言う男性への蔑称ですよね。
これを知ってるか知らないかでも意見が変わるかも。
あの界隈を見てると、彼女達が抱える憎悪はまず父親が発端であることが多いように思えます。
なので犯人の彼女の憎悪は間違いなく父親だけでなく世の中の男性にも向けられているし、おそらくあまり主体性が無く男性達に翻弄されている(ように見える)女性教師にも向けられていると思います。
「嘘の普通を壊す」というのはそういう男性中心の家父長制社会に対して、「自分が、自分や周りに嘘をついてうまく回るように取り繕ってあげてきたこと」を許容する限界が来たのではないかと。
ここは男性にも怒らずにどうかご理解していただきたいのですが、女性は波風を立てずに平穏に暮らすために、ニコニコして自分や周りに嘘を付いて生きていることが多いのです。
だから女性の笑顔は好意の証でも健やかに生きている証でもありません。
(わかりやすく説明するために過度に一般化しています)
そして女性の被害は訴えても矮小化されがちですから、そうなるとそういう男性が作り上げてきた社会構造、ひいては世の中そのものを憎むようになってもおかしくありません。
「犯人の動機が薄い。理解できない」というレビューがチラホラ見られる世の中だってことが、つまりは派手に新幹線を爆発させること、もしくは自分の死を望んだ彼女の動機なんだと思いました。
これが9年間上司に尊厳を奪われ続けたサラリーマンが起こしたテロならどうでしたでしょうか。
こういった、「被害を訴えてもかなわない苦しさゆえに社会を憎む」というのはSNSを嗜む現代女性の少なくない人達が抱えてる心の闇だと思います。
そういう意味で、今話題の「アドレセンス」の逆バージョンとも思いました。
だから女性である先生ではなく、男性である草彅くんの優しさに触れて一瞬感情が壊れてしまったのではないでしょうかね。
女子高生がそんなこと出来ない、っていう意見に対しては、チラッと見ただけで正しいかちょっと自信ないですが、「⚪︎⚪︎工科大附属高校」ってホワイトボードに書いてあった気がしますので、それなりに理系知識がある上で古賀にも指導されたのはありそうです。
「男嫌いなのに男(古賀)と打ち解けて利用されるのか?」というツッコミもあるかもしれませんが、彼女は逆に利用したつもりかもしれません。
で、古賀ですが、非常に優しく、穏やかそうな演技でしたね。
昭和だったら犯罪者の息子は家に落書きされるとかいじめを受けるとかとんでもない差別を受け、苦労してきたことだと思います。
75年だともう新左翼なんかの運動も下火でシンパも少なくなってたんじゃないでしょうか。
私は生まれてないので想像ですが。
ですが、古賀にとっては良い父親だったんだろうな、とも感じさせられます。
でなければ爆破テロ犯の息子と蔑まれてわざわざ発破の会社に勤めますか?
嫌いな父親の復讐も考えないと思います。
だから英雄と祭り上げられた警察官が本当は娘を虐待し傅かせる(「せめてオスなら」との言葉からもしかしたら性的虐待もあるかも)最低の父親であることを知った彼は、心底彼女に同情したはずです。
可哀想な女子高生を利用して復讐した、というのは表面的にはそう見えるかもしれないけど、あくまでも私は2人の意志が一致した上でそれぞれが主体的に行ったものだと思いました。
優しく穏やかそうに見えるのが、世間から白い目で見られてきた彼が生き延びるために身につけた「嘘」なら、彼もその過去を壊したかったのかもしれません。
ただ古賀はもしかしたら、やがて犯人が発覚したときに「可哀想な女子高生を自分が利用した」というシナリオにすれば彼女をかばえると思っていたかも。
そんなわけでJRや政府警察側があくまでもプロフェッショナルな仕事人として描かれているなら、犯人側は人間として描かれてるな、と思った作品でした。
これ旧作も割とそんな感じでしたね。
つらつら変に考察を書きましたが、ハラハラ退屈せずに時間を忘れて観られるだけでも充分良い作品だと思いました。