「指輪が指から離れている瞬間は、女性が冷静さを取り戻している時間なのかもしれません」早乙女カナコの場合は Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
指輪が指から離れている瞬間は、女性が冷静さを取り戻している時間なのかもしれません
2025.3.18 MOVIX京都
2025年の日本映画(119分、G)
原作は柚木麻子の小説『早稲女、女、男(祥伝社)』
ダメ男に振り回される真面目女子を描いた恋愛映画
監督は矢崎仁司
脚本は朝西真砂&知愛
物語の舞台は、都内某所
念願の大学に進学が決まった早乙女カナコ(橋本愛)は、ルームメイトの三千子(根矢涼香)と一緒に暮らし始め、大学生活を満喫しようと意気込んでいた
学内ではサークルの勧誘で盛り上がっていたが、突如謎の女(平井亜門)が男(中川大志)に銃を向けて撃ってしまう
男はもんどり撃って倒れ込み、辺りは騒然とする
偶然、その場に居合わせたカナコは、本当に人が倒れたと思い、救急車を呼ぶように周囲の人に訴えかけた
だが、それは演劇サークル「チャリンクロス」のパフォーマンスで、倒れ込んだ男役の長津田とカナコのツーショットはSNSにアップされて拡散されてしまった
その後、文句を言う為に長津田の元を訪れたカナコだったが、彼のペースに巻き込まれ、徐々に距離が近くなって、交際を始めていく
長津田は脚本家を目指しているようだが、いまだに目が出る様子はない
そんな暮らしが3年ほど続いた頃、2人はペアリングを買おうと約束をすることになった
映画は、この2人の間に様々な男女が入り乱れる様子が描かれ、カナコ以外の男女のやり取りもきちんと描かれていく
なので、印象としては、長津田とカナコを中心とした群像劇のような感じになっていて、主要なメンバーはそれぞれ関わりを持つことになっていった
最初に2人の間に入ったのは、別の女子大の学生・麻衣子(山田杏奈)で、彼女は長津田がサークルの演劇の宣伝ビラを渡した相手だった
彼女は長津田のことが気になってサークル棟まで訪れ、そこから猛アプローチを仕掛けていく
続けて2人の間に入ってくるのが、吉沢(中村蒼)で、彼は内定が決まったカナコの就職先の社員だった
吉沢は営業部内の慶野亜依子(臼田あさ美)と恋人関係にあったが、人生観の違いから破綻していた
吉沢はカナコのことを気にいるものの、カナコはすんなりと彼の元には行けなかった
だが、長津田と麻衣子が一緒にいるところを見たことで、カナコの中で何かが吹っ切れてしまうのである
映画は、『私にふさわしいホテル』を観ていなくても全く問題のない作品で、男に振り回されている女性を描かれていた
大学のノリを引きずる成人、大学のノリの真っ只中にいる学生、適齢期を越えてしまった中年女性
それぞれが自分がどうしたいかで動いていく様子が描かれ、ある決断へと向かっていく
そんな気持ちとは裏腹に男性陣も思うがままに進んでいく様子が描かれていて、その強さと奥にある弱さと言うものが同居していたことがラストで明かされる、と言う内容になっていた
長津田の告白をどう受け止めるかは人それぞれだが、ここでも自分本位のところに長津田のダメなところが凝縮されている
それゆえに、好きだけど、カナコは走り出してしまうのである
女性目線の男性のダメなところを描いている作品だが、若干男性陣にもエクスキューズを残していると言う印象がある
ラストでは、長津田がカナコに追いついて転倒するのだが、その後は描かれていない
冒頭では、そのままなし崩しだったが、ラストではどうなっているかわからない
一度あったことが再度起こるかもと言う希望を抱かせつつも、実際には突き放すのだと思うけれど、そこをはっきりと描かないところが良心なのかもしれない
恋愛はタイミングだとは言うけれど、長津田は自分のタイミングでしか物事を動かせないので、それゆえに誰とも結ばれないまま終わるようにも思えた
いずれにせよ、男にとっての社会的な地位は形になっていないとダメで、その最たるものが指輪なんだと思う
女性にとっても象徴的なもので、それを身につけている「時間」と言うものをとても大切にしている
だが、男にとっての象徴は「そこに込められた質量」となっていて、それが男女間の軋轢を生んでいると思う
カナコは指輪をネックレスにしていて、それは肌身離さずと言う意味合いがあるのだが、長津田はその意味に気づいていないように思えた
指から離れて何年の時が経っているのかはわからないが、それだけの時間「指にいなかった指輪」というのはその役割を失ったただの貴金属という意味に近いのかもしれません